18、東京都立江戸北武道館
ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン・・・・・・
ガタンゴトンガタンゴトン ガタンゴトンガタンゴトン・・・・・
葉月たちは、以前、野島に教わった通りに水都駅で乗り換えた。そして県南部の取出駅まで行くはずが、途中、りんが間違って一つ前の北取出駅で降りてしまった。思わぬハプニングだったが、なんとか取出駅から磐常線に乗り換え、現在、千葉県末戸市を南下中。
「まったく、ほんと焦った。よかったよ、何とか乗れて。そそっかしいんだからぁ!」
「ごめんごめん、はーちゃん! てっきり、あの駅だと思っちゃってさー」
「気づいたら、降りてるんだもんな! びっくりしたっぺよ、りんー」
「ま、これにこのまま乗っていけば、翔平たちの会場がある最寄り駅に着くね!」
「なんかー、自分の試合じゃないのに、ドキドキしてくるなー」
「剣道の試合、生で見るの初めてだっぺ。武道のヒリつく緊張感は、同じかな?」
「そうね。空手の試合より、さらに一瞬の攻防が洗練された感じみたいだよ?」
「はーちゃん、武道の話になると、キリっと目が変わるよねー? さすがだね!」
「そんなことないよー。でも、剣道の大会で、何か自分たちの糧になればとは思うね」
雑談をしているうちに、綾畝駅へ到着した。一歩降りるとそこは、空気の匂いが違う町。
「「「 東京だぁ! 着いたぁーっ! 」」」
三人は、ビルの間から吹く熱い都会の風を受け、駅前で瞳をキラリと輝かせていた。
ざっ ざっ ざっ ざっ・・・・・・
綾畝駅前の道路を渡ると、噴水の雫がきらりと光る石畳の公園がある。そこの時計台は、既に午前九時半過ぎを示していた。
その公園の奥には、菱形をつなぎ合わせた幾何学模様のような建物が堂々と建ち、そこから乾いた音や大きな気合いの声が聞こえてくる。
全国中学剣道選手権大会の会場、「東京都立江戸北武道館」だ。
「す、すっごい形の会場ーっ! えぇ! こんなところでやってるのぉ?」
りんが、目を丸く見開いて、わかりやすく驚いている。
「初めて来た場所だけど、すごいね! ・・・・・・もう、試合、始まってるみたいね!」
「竹刀がぶつかり合う音が聞こえっぺ! はづき。りん。早く中へ行こう!」
「そうだね。しっかし、あっちこっちに坊主頭の剣道少年たちがいるねーっ」
「翔平たちは、さすがにもう中かな? ここにはいないね」
きょろきょろと周囲を見回す葉月たち。
武道館の前庭には、黒や紺の袴姿の少年剣士、白袴の少女剣士がいっぱいいる。
「あれっ? え? あれれれ? なんでぇ!」
「どした、りん? ・・・・・・ん? んんん? まさか、びっくり!」
りんと亜弓が、武道館の入口前に立つ男性を見て、驚きの声をあげた。
「ん? やぁー。今着いたのかい?」
「だ、団五郎おじさん! ええ? 来てたんですか!」
葉月もびっくり。三人の目の前に立っているのは、団五郎だった。
「いやー、翔平の応援に来たけど、駐車場がいっぱいで、なかなか停められなくてね」
「うちら、始発で来たんですけど、何時に大荒井を出てきたんですか?」
「八時前くらいかな。高速道路を一気に走ってきたよ。久しぶりの東京だなぁ」
「えー。わたしたちよりも後に出たんですね。団五郎おじさん、すごいなぁ!」
「ははは。逆に、葉月ちゃんたちみたく、電車旅でもよかった気もするけどね」
団五郎はにこっと笑い、三人の顔をそれぞれ見る。
「さぁ、翔平たちの試合が始まるかもしれない。みんなで、中に行ってみようか」
「はい! めいっぱい応援しなきゃ! りん! 亜弓! いっぱい声出そう!」
「空手の試合場に入る時の気分だなー。ショウ君の試合、楽しみっ!」
「剣道の試合から、うちは何かヒントを持ち帰るとすっぺ! どれどれー」
葉月たちは、団五郎と一緒に武道館の中へ入っていった。
しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ・・・・・・
ジーワジーワジーワジーワ・・・・・・
ミィーンミィンミィン・・・・・・
多彩な蝉の声が響き、真夏の陽射しがかあっと降り注ぐ。武道館はかなり、暑い。




