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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第5章 精悍な少年剣士、須々木翔平!
18/128

18、東京都立江戸北武道館

   ガタンゴトン  ガタンゴトン  ガタンゴトン・・・・・・

   ガタンゴトンガタンゴトン  ガタンゴトンガタンゴトン・・・・・


 葉月たちは、以前、野島に教わった通りに水都駅で乗り換えた。そして県南部の取出駅まで行くはずが、途中、りんが間違って一つ前の北取出駅で降りてしまった。思わぬハプニングだったが、なんとか取出駅から(ばん)(じょう)(せん)に乗り換え、現在、千葉県末戸市(ちばけんまつどし)を南下中。


「まったく、ほんと焦った。よかったよ、何とか乗れて。そそっかしいんだからぁ!」

「ごめんごめん、はーちゃん! てっきり、あの駅だと思っちゃってさー」

「気づいたら、降りてるんだもんな! びっくりしたっぺよ、りんー」

「ま、これにこのまま乗っていけば、翔平たちの会場がある最寄り駅に着くね!」

「なんかー、自分の試合じゃないのに、ドキドキしてくるなー」

「剣道の試合、生で見るの初めてだっぺ。武道のヒリつく緊張感は、同じかな?」

「そうね。空手の試合より、さらに一瞬の攻防が洗練された感じみたいだよ?」

「はーちゃん、武道の話になると、キリっと目が変わるよねー? さすがだね!」

「そんなことないよー。でも、剣道の大会で、何か自分たちの糧になればとは思うね」


 雑談をしているうちに、綾畝駅へ到着した。一歩降りるとそこは、空気の匂いが違う町。


「「「 東京だぁ! 着いたぁーっ! 」」」


 三人は、ビルの間から吹く熱い都会の風を受け、駅前で瞳をキラリと輝かせていた。 


   ざっ  ざっ  ざっ  ざっ・・・・・・


 綾畝駅前の道路を渡ると、噴水の雫がきらりと光る石畳の公園がある。そこの時計台は、既に午前九時半過ぎを示していた。

 その公園の奥には、菱形をつなぎ合わせた幾何学模様のような建物が堂々と建ち、そこから乾いた音や大きな気合いの声が聞こえてくる。

 全国中学剣道選手権大会の会場、「東京(とうきょう)都立(とりつ)江戸(えど)北武道館(きたぶどうかん)」だ。


「す、すっごい形の会場ーっ! えぇ! こんなところでやってるのぉ?」


 りんが、目を丸く見開いて、わかりやすく驚いている。


「初めて来た場所だけど、すごいね! ・・・・・・もう、試合、始まってるみたいね!」

「竹刀がぶつかり合う音が聞こえっぺ! はづき。りん。早く中へ行こう!」

「そうだね。しっかし、あっちこっちに坊主頭の剣道少年たちがいるねーっ」

「翔平たちは、さすがにもう中かな? ここにはいないね」


 きょろきょろと周囲を見回す葉月たち。

 武道館の前庭には、黒や紺の袴姿の少年剣士、白袴の少女剣士がいっぱいいる。


「あれっ? え? あれれれ? なんでぇ!」

「どした、りん? ・・・・・・ん? んんん? まさか、びっくり!」


 りんと亜弓が、武道館の入口前に立つ男性を見て、驚きの声をあげた。


「ん? やぁー。今着いたのかい?」

「だ、団五郎おじさん! ええ? 来てたんですか!」


 葉月もびっくり。三人の目の前に立っているのは、団五郎だった。


「いやー、翔平の応援に来たけど、駐車場がいっぱいで、なかなか停められなくてね」

「うちら、始発で来たんですけど、何時に大荒井を出てきたんですか?」

「八時前くらいかな。高速道路を一気に走ってきたよ。久しぶりの東京だなぁ」

「えー。わたしたちよりも後に出たんですね。団五郎おじさん、すごいなぁ!」

「ははは。逆に、葉月ちゃんたちみたく、電車旅でもよかった気もするけどね」


 団五郎はにこっと笑い、三人の顔をそれぞれ見る。


「さぁ、翔平たちの試合が始まるかもしれない。みんなで、中に行ってみようか」

「はい! めいっぱい応援しなきゃ! りん! 亜弓! いっぱい声出そう!」

「空手の試合場に入る時の気分だなー。ショウ君の試合、楽しみっ!」

「剣道の試合から、うちは何かヒントを持ち帰るとすっぺ! どれどれー」


 葉月たちは、団五郎と一緒に武道館の中へ入っていった。


   しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ・・・・・・

   ジーワジーワジーワジーワ・・・・・・

   ミィーンミィンミィン・・・・・・


 多彩な蝉の声が響き、真夏の陽射しがかあっと降り注ぐ。武道館はかなり、暑い。

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