14、お見送り前の
チチチュン・・・・・・ チチュンチチュン・・・・・・
ミャウゥー・・・・・・ ミャアアウー・・・・・・ ミウウゥー・・・・・・
「さーて、今日も走ってくるかーっ! 翔平たちのお見送りもしなきゃね!」
日の出から間もない早朝。
葉月は毎朝の日課であるランニングをしに、スニーカーを履いて家を出た。
たっ・・・・・・ たっ・・・・・・ たっ・・・・・・ たっ・・・・・・
たたたっ たたたっ たたたっ たたたたっ・・・・・・
Tシャツ一枚、紺色のスパッツ、そして淡い水色のスニーカー姿の葉月は、軽快な足取りで走ってゆく。
水平線が、陽の光でぱあっと白い線になっている。
海面には、きらりきらりと宝石のような波が漂い、カモメがぷかりとそこに浮く。
「あ! ・・・・・・翔平ーっ!」
海沿いを走っていると、砂浜に立つ翔平の姿が。葉月は急いで浜辺へ下りてゆく。
「よう! おはよう! 昨日は面白かったなーっ」
「おはようっ! いい壮行会だったね! 翔平、ここにいて大丈夫? 間に合うの?」
「なぁに、大丈夫。もう荷物は揃え終わったし、電車まで二時間以上あるしなっ」
「そっか! わたし、駅まで見送り行くね! 大会も、東京まで絶対にいくよ!」
「ありがとな、葉月。・・・・・・思いっきり東京で暴れてやる! 約束の、全国制覇だ!」
「えへへ! その意気、その意気! 応援してるよっ、翔平! ファイトっ!」
葉月は口元をくいっと上げて、明るく柔らかい笑顔で翔平の顔を見つめる。
ざっぱああぁーんっ・・・・・・ ざぱんざぱあ・・・・・・ぁんっ
ジーワジーワジーワジーワ ジーワジーワジーワジーワ
浜に寄せる波の音と、陽射しの下に響く蝉の声。
二つが織り混ざり、翔平と葉月の心の底へ、夏の音として染みこんでゆく。
「葉月。・・・・・・まずは、俺が切り込み隊長ってことだよな?」
「切り込み隊長?」
「約束に向けての、さ?」
「あ! うん。そうだねっ! わたし、翔平が全国制覇したら、すぐ続くからね!」
「気合い入った目ぇしてんな、葉月! 俺も、空手の全国大会、絶対応援いくからな!」
「ありがと! ・・・・・・あ、そうそう。わたしさ、昨晩、翔平にね・・・・・・」
二人は、波飛沫から舞い散る潮と海の香りを浴びながら、並んで太陽を見つめている。
たったか たったか たったか たったか・・・・・・
どっとこ どっとこ どっとこ どっとこ・・・・・・
「今日はショウ君たちのお見送りだー。わーん。なんだか寂しいかもー」
「なぁに言ってんだか、りんは。・・・・・・明日、うちらも始発で東京行けばよかっぺ?」
「だってぇー。今日一日、地元からショウ君がいないんだよ? 寂しいじゃんー」
「うちは、別に・・・・・・。まぁ、りんは、そうなんだろうね・・・・・・」
りんと亜弓は、葉月と同じく剣道部を見送るために今日は早起きしたようだ。見送りの時間まで余裕があるため、二人で早朝ランニング中。亜弓は既に汗だくになっている。
「しかし、はーちゃん、毎朝これやってるのかー。そりゃ、強いわけだ」
「はづき、毎朝早起きしてこの走り込みやってるのは、ほんとすごかっぺ」
「はーちゃんの強さは、こうした見えない部分の努力が蓄積されたものだもんね」
「それにしても、うちはどーも早起き苦手ー。父ちゃんは早起きだけどさー」
「そりゃー、あゆパパは漁師だもん! きっと日の出前に起きて、出ちゃうでしょ?」
「そうだね。早々と出てくねー」
たったか たったか・・・・・・
どっとこ どっとこ・・・・・・
「ん! んん!? ・・・・・・りん! あれ、はづきじゃない?」
海沿いの道路を走りながら、亜弓はふと、浜辺の方へ目を向けた。
「あ、ほんとだ。はーちゃんだね! ・・・・・・ん? ショウ君? ショウ君もいる!」
「なんだっぺや? いつからいたんだろ?」
「なんか、すっごく二人とも気合い入った顔してるねーっ?」
「あれは、何を話してんだろうね? りん。聞こえる?」
「なんか・・・・・・向かい風だからか、聞こえないなー。朝なのにセミもうるさくてー」
ジーワジーワジーワジーワジーワジーワジーワジーワジーワジーワ・・・・・・
・・・・・・ジーワジーワジーワジーワ・・・・・・
・・・・・・ジーワジーワ・・・・・・
りんは、両耳に手を当ててみたが、そこには大量の蝉しぐれが集まるだけだった。
「ま、直接あっちに行ってみっぺ! りん。はづきのとこ、行こう!」
「そーだね。・・・・・・おーいっ! はーちゃーんっ! ショウくーんっ!」
道路から浜辺へ続く石段を駆け下りる二人。
大きく手を振って走ってくるりんと亜弓に、葉月たちも気づいた。
「え! りんに、亜弓ー? どうしたのーっ? 珍しいね、こんな朝早くに!」
「ショウ君たちのお見送りがあるからさ! それより、二人はいつからー・・・・・・」
葉月にハイタッチするりんと、翔平の脇腹を突っつく亜弓。
それから四人は雑談を交わし、三十分間ほど砂浜ダッシュを続けて過ごした。




