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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第3章 葉月と翔平が決めたこと
11/128

11、寝ちゃった!

「・・・・・ゃん! ・・・・・・ぇちゃん!」


 ぼんやりとした意識の中で、誰かが呼ぶ声が葉月の耳に聞こえてくる。

 周囲は既に、とっぷりと日が暮れかけていた。


「・・・・・・えっ! はっ?」

「姉ちゃんってば!」

「え? 文弥? ・・・・・・え? わたし、寝ちゃった?」

「大いびきかいて、寝てたよ? ・・・・・・やっと起きたか」

「ごめん文弥、起こしてくれたんだ? ・・・・・・で、なに?」

「おかあさんが、はやく公民館まで来いってさ」

「公民館? あれ? 何だっけ?」

「寝ぼけてんのかよー? ほら。今夜は全国大会出る人の、一斉壮行会だよ!」

「・・・・・・あ! そ、そうだった! 忘れてた! やっばーい!」


 慌てて身支度をする葉月。文弥は、サンダルを履いて葉月をずっと待っている。


「ごめん文弥! もう、みんないるの?」

「姉ちゃんだけだよ。昼寝して遅刻なんて、かっこわりーなー」

「うっかりしてたなぁ。亜弓に言われてたんだっけ! やっちゃったー」


 文弥と公民館へ走ってゆく葉月。

 途中、サンダルの爪先を突っかけて転びそうになりながらも、ものすごいスピードでダッシュして、あっという間に到着。


   がやがやがやがや  がやがやがやがや

   がやがやがやがやがや


 潮の香りが漂う公民館は煌々と明かりが灯り、賑やかな声が聞こえてくる。


「「「「「 いやっはっはっはっは! ほらほら、飲みましょう! 」」」」」


 響いているのは大人たちの談笑する声。華やかな明るい女性たちの声。そして、祝福される大荒井中学校剣道部に、亜弓とりんの声。


「(うわー。みんな既に盛り上がってるーっ。は、入りづらいなぁー)」


 外からこそこそと中の様子を窺う葉月。


「いーから。姉ちゃん、主役だろ? 堂々と行けよー。寝坊しました、ってさ」

「ちょっと、文弥! ・・・・・・そんなこと言えるわけないでしょうよ」

「冗談だってば。・・・・・・あ! ほら。翔平にーちゃんが来た」

「えっ?」


   ひたっ  ひたっ  ひたっ  ひたっ


 手にグラスを持ち、首にフラワーレイをかけた翔平が、玄関まで出てきた。


「遅かったな葉月? もう、みんな先に始まっちゃったぞ? はやく来いよー」

「ご、ごめーん! なんか、うたた寝しちゃっててー」

「剣道部はもう、挨拶終わったんだ。草笛や島村も、既に一言終わったぞ?」

「え! ええ! じゃあ、残ってるのって・・・・・・」

「葉月だけだよ。さぁ、上がれよ! 校長先生や町長も、待ってるからさ」

「うわぁ・・・・・・。なんっか、大がかりな壮行会だね。町長さんまで来てるなんて」


 葉月はサンダルを脱ぎ、おそるおそる公民館へ上がってゆく。

 翔平は、グラスを持ったまま大股で廊下を歩いて奥の大広間へ先に入っていった。


「ん? あーっ! はづき、やーっと来たぁ! 遅かっぺよ!」

「はーちゃん、おっつかれーっ! 先に楽しんじゃってるよーっ!」


 真っ先に、亜弓とりんが駆けつけ、葉月の腕を引っ張ってゆく。


「ちょ、ちょっとぉ! 亜弓! りん!」

「さぁさぁ、残りははづきだけだっぺ! 全員の前で、カッコイイ挨拶、お願いね!」


 わいわい盛り上がる大人たちの間を抜けてゆく三人。

 二人に腕を引っ張られていく葉月の目の前には、「大荒井町の宝! 羽ばたけ全国へ!」と大漁旗に書かれた、手作りの大きな題幕が張られていた。

 葉月は「緊張するー」と汗を垂らしながらも、どこか楽しそうな表情になっていった。

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