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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第15章  汗と涙と笑い声 少女たちの熱い夏 
103/128

103、強者激突! 8強対戦!

   ワアアアアアアアアアアアアアーッ

   ワアアアアアアアアアアアアアーッ


 女子個人組手準々決勝戦。

 E、F、G、Hのコートには、葉月、みかん、絢子、亜弓、小紅がそれぞれメンホーを装着し、試合の準備を整えていた。


「よぉーしっ! やるぞ! ここから改めて、気を引き締めなきゃ!」


 葉月は、メンホーの両頬をぱしんと叩き、気合いを入れる。

 対面する白側では、みかんが目を瞑ってゆっくりと呼吸し、気を集中させている。


◆ 赤 大荒井中学校 鈴鹿葉月(茨城) 対  ◇ 白 宇河二中学校 安藤みかん(栃木)


「・・・・・・赤、茨城県! 大荒井中学校、鈴鹿選手!」

「はいっ!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「「「「「 フレフレ、はづき! ガンバレガンバレ、はづきーっ! 」」」」」

「姉ちゃん、ファイトーっ!」

「葉月ーっ! しっかりなぁーっ! がんばれよーっ!」

「はーちゃんもあゆも、ファイトだよーっ! 私の分までお願いねーっ!」


 茨城県陣営では、大漁旗が大きく何本も翻り、葉月への声援が沸き上がる。それと同時に、Gコートにいる亜弓へも、同じエールが続いて送られた。


「・・・・・・白、栃木県! 宇河二中学校、安藤選手!」

「はいーッ!」

「「「「「 みーかーん! みーかーん! ファイトだ、みーかーんっ! 」」」」」

「みかーんっ! ここで勝てば、一気に決勝まで駆け上がれる流れよーっ!」

「がんばれーっ! みかぁーんっ!」


 夏江とくるみが、立ち上がってみかんへ声援を送っている。

 みかんの後ろには、監督の雲野師範がどかりと座り、何か話しかけている。

 準々決勝戦は、島村師範は亜弓の監督に付いているため、葉月は単独で試合に臨む。


 ―――「選手っ!」―――


「よっしゃーーーーーっ!」

「しゃっ! 行くぞ!」


 主審が、葉月とみかんに指示をし、二人は開始線へ一気に並び立った。


 ―――「勝負三本! 始めッ!」―――


「たあぁーーーーーーーーっ」

「しゃあっ!」


 葉月対みかんの試合が始まった。

 両者、開始と同時に気合いを発し、右構え同士で向かい合う。


   サササッ  サササッ・・・・・・

   タタタンタタタンッ タタンッ・・・・・・


 無駄のない滑らかな動きの葉月と、細かくリズミカルなステップを踏むみかん。

 目と目を合わせ、間合いを探り合いながら、コートの中央を中心としてお互いに右へと回ってゆく。


「(・・・・・・この人も、小紅と同じくらいの実力を持ってるな。肌でわかる!)」


 葉月は、にやっと笑い、間合いをさっと切って素速さのギアを一段上げた。


「(早乙女とあれほどの試合をする実力者か。・・・・・・確かに、間違いないな!)」


 みかんも、呼応するように、葉月のスピードに合わせて動きをさらに速くする。


   シャシャシャシャッ!  シュンッ!

   タタタッタタタッタタタタタッ!


 両者、間合いを探る時間が続く。二人の間に漂う緊張感が、次第に増してゆく。


「(・・・・・・試してみるか!)」


 窓から一瞬差し込んだ陽の光で、みかんの目が、きらっと光った。


「せええぇやあぁーーーーーーーーっ!」

「(っ! 仕掛けてきた!)」


   ・・・・・・タタンッ  ドギュンッ! 

   ズバババババッ!  バババシュンッ!

   バシュッバババッ!


 ロケットスタートのように、床を一瞬で蹴って間合いを詰めたみかん。

 マシンガンのような手数と、その合間に繰り出される鋭い蹴りのコンビネーションで、葉月に仕掛けてゆく。


「(くっ! 小紅とはまた違う、回転力のある連打だ! カウンターが合わせにくい)」


   ・・・・・・ヒュヒュヒュンッ!

   ササササッ!  ガガガガガガガッ!


 体捌きと受け技を駆使し、葉月はみかんの技を防ぐ。


   ・・・・・・バチンッ!  ビシイッ!

   シュバッ!  ビシュイッ!


「(すごく精密な技! わたしの受けの先読みをして技を出してくる!)」


 みかんは、まるで将棋のような先読みを使い、技を出す。

 葉月が上段を防げばすぐに中段へ、中段を防げばまたもや上段へ、腹部を防げば脇腹へ、脇腹を防げば顔面へと繋げ、カウンターを取るタイミングすら与えない。


   ヒュンッ!  ビシイッ!

   バシイッ!  ババッ!

   バシバシバシッ!  ビビビビッ!

   ビシイッ!  バシッ!


「(どうだ、鈴鹿葉月! 昨日、じっくりと試合を見させてもらったからな)」

「(この人、わたしの動きのクセを、きっと見抜いてるんだ。昨日、見せすぎたなぁ)」


   ・・・・・・ヒュウウゥンッ

   パシイィンッ!


 葉月の胸元へ放たれたみかんの突き。それを、掌を開いて葉月は受け止めた。


「・・・・・・たああぁーーーーーーいっ!」


   ビュウゥンッ!  ささっ!

   ヒュウゥン・・・・・・ッ


 至近距離から、葉月は左の上段回し蹴りを放った。

 みかんはこれを下がって構えを入れ替えながら、紙一重で見切る。


「(くっ! 見切られた!)」

「(危なかった! この一瞬で判断して蹴るとは!)」

「(やっぱり、簡単には決まらないか)」

「(判断が一瞬遅れたら、蹴られていたところだったな)」

「(やば! この間合いで空振りは・・・・・・ま、まずいなぁ!)」

「(焦ったな鈴鹿葉月。隙だらけだぞっ!)」


 目と目で会話する二人。


「(まずい! 来る! どうする? わたしの今の姿勢からなら・・・・・・)」

「せええぇやあぁーーーーーっ!」


 みかんは、空を切った葉月の蹴りを手で弾き、上段突きを放った。

 

   ・・・・・・くるん  パカァァーーンッ!

   ばばっ!

   

   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「(・・・・・・な!)」

「止め! 赤、上段蹴り、一本ーっ!」

「「「「「「 いいぞいいぞ、はづき! いいぞいいぞ、はづき! 」」」」」

「(う、後ろ回し蹴り・・・・・・っ!)」


 葉月は、みかんの突きを躱すようにして背を向け、一回転。そこから、逆側の足が弧を描き、みかんの後頭部へ蹴りが入った。起死回生の大技、「後ろ回し蹴り」だ。

 みかんは一本技を決められたが「面白い」と笑い、冷静な表情を崩さずに、白の開始線に立って葉月の目を見ている。

 大技による一本により、2対0で葉月がまず先制。試合時間は残り一分二十秒ほど。


「(何とか、決まった! ・・・・・・でも、まだまだ油断できないや!)」


 葉月は、帯をきゅっと締め直し、みかんの目をメンホー越しにじっと見つめる。

 観覧席では、香夏子や和花子が跳び上がって「すっごぉい!」と驚嘆。翔平も、葉月の大技による先制点を目の当たりにして、両拳をぐっと握り、笑顔を見せていた。

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