表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【外伝】あなたが教えてくれたこと  作者: 小林汐希
2話 大親友からの第1報
5/57

【2-2】 双方の家から公認の同居生活だもん!




「お待たせ!」


 いつもどおり、校門のところで待ち合わせをしていた和人と合流する。あたしが文系、和人が理系だから、一緒の教室で授業を受けられたのは1年生の一般教養の授業くらいだった。授業のカリキュラムも全然違う。


 それでも、この大学は一部の学部や施設を除いて同じ広大なキャンパスに集約されているから有り難い。


 こうやって一緒に登下校できるメリットは、お互いに一人暮らしを始めた頃から十分に利用させてもらっている。


「いやぁ、それにしても、もう3年になっちゃうんだ」


「そう、先生はそれに半年長いけどね。結花頑張ったなぁ」


 今日は金曜日で、冷蔵庫も空っぽに近い。週末は和人もレポートがあったり、あたしもアルバイトを入れていたりする。


 金曜日は二人とも4限で終わるから、学校帰りにスーパーで買い物をするのが定例になっている。


 二人分だから当然一人暮らしをしていた頃に比べて量や種類も多くなる。


 それでも、大きな声じゃ言えないけれど……、こうやってプレ新婚さんごっこのような時間は嫌いじゃない。




 まだ真冬というこの時期、スーパーを出れば外は真っ暗だ。


 空を見上げると東の空にオリオン座が見えた。空がそれだけ澄んでいるということだ。今夜も冷えそうだな……。


 和人が2つ、あたしが1つ品物でいっぱいのエコバッグをぶら下げて、住宅街の街灯に照らされた道を歩いた。


「先にお風呂入ってて。あたしごはん作っちゃうよ」


「悪いね」


 一人で住んでいたときには、お互いもっと学校から近い場所だった。でも昨年の今頃、いざ同居となったとき、二人で探したのは、学生のアパート街からは少し離れた部屋だった。


 築15年、2LDKの部屋で月々のお家賃6万円。それでも鉄筋コンクリートの建物できちんと手入れもされていた。


 リビングルームとダイニングは共有スペースとして、残りの二部屋はそれぞれの個室にしてある。寝るときも別々だ。


「学校から遠いから体冷えちゃうよなぁ。自分たちで選んだんだけどさ」


「まぁねぇ。でもあんまり近いと寝坊もしやすいし」


 学校から約2キロと離れてしまって、逆に駅の方が近い。


『遠い方がうるさい連中来ないもんな』


 そんなふうにお互いに話していた。


 大学同級生の男女が同じ部屋に同居するだけでも、ネタにされてしまいそうな環境かもしれないから、学校近くは避けた。


 もちろん、親も認めているのだから後ろめたい事ではない。


 引っ越した後に和人とあたしの両親がそれぞれ様子を見に来て、シェアハウス並みの部屋の徹底した分離ぶりに安心だと笑って帰ったほどだ。


 だけど、それだけではなかった。こんな閑静な住宅街のファミリー向け物件を選んだのは、お互いにその先を既に見据えているから。


 ここに住み続けるかはまた別の話だけど、シミュレーションしておくにはちょうどいい時間だから。


 都心に出るにも電車1本で行ける。適度に自然も残っていて、近所には去年の夏に和人と二人で花火をした児童公園もある。


 このまま単位も順調に落とさずにいけば、来年の春には自分たちも大学を卒業する。


 就職するのか、それとも卒業した後は和人を支える生活に入るのか。はたまたその中間になるのか。そのあたりが確定しないと就職活動だって方向が定まらない。


 こんなことを去年の春先から考え込むようになってしまった。こうして同居を始めてからはその思いが更に強くなった。




 時間があまりないけれど、寒かったから何か体が暖まる物が食べたい。ごはんを炊きながら考える。


 レトルト食品の入った戸棚を見て、麻婆豆腐の素があったからそれでいこう。挽き肉を炒めて、お豆腐をさいの目切りにして調味料と手早く和える。


 お味噌汁用のお豆腐を使ってしまったので、乾燥わかめを水で戻して、玉ねぎと中華スープのもとで味を付ける。


 正直、私の親友に比べれば情けないほどの手抜きだ。それでも和人にすれば、一人暮らしの頃から一気に食事の質がレベルアップしたということ。一体どういう物を食べていたのよ……。


 あたしのアルバイトの時や、授業の関係で和人が先に帰るときは、作っておいてくれるときもあるから、難しいことを考えなくてもいいように、レトルト食品も多くストックしてあるのだけれど。


「そうかぁ、もう3年も経っちゃうんだなぁ」


 お風呂から上がってきた和人とテーブルを挟んで食事にする。


「和人は結花のことあんまり知らなかったんでしょ?」


「あの騒ぎまではね。千佳に教えてもらって、そんな同級生がいたんだって気がついた。学級委員だったのに目立たなかったしなぁ」


「うん、結花はそういう子だったから」


 結花。そうだよね。小学校の頃から目立たない女の子だったんだ……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ