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【外伝】あなたが教えてくれたこと  作者: 小林汐希
2話 大親友からの第1報
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【2-1】 あの二人が帰ってくる!




「本当!?」


 お昼休み、あたしは授業時間に受信していたメールを見るためにスマートフォンを取り出して思わず叫んだ。


 周りの学生たちがこちらを見ているけれど、いまのあたしには些細で気にするような事じゃない。




 こんな中途半端な時間に連絡をよこすのはあの子しかいない。


 仕方ない。なんせ相手はニューヨークに在住だ。日本との時差だって14時間ある。


 ほぼ昼と夜が逆転してしまうから、リアルタイムにメッセージを交換できるSNSアプリを使うより、じっくりと時間をかけて読み書きができるメールでのやり取りの方が多い。


 でも、こちらが平日だと分かっている時は送ってこないのに、何か緊急のことがあったのか……。


 授業中に着信のバイブが鳴って、早く昼休み時間になれと時計を急かして、ようやく講義時間が終わって鞄のポケットから取り出した。


「やった! 大ニュースだよこれ!」


 教室を飛び出して、キャンパスを学食に走った。


和人(かずと)! 大事件!」


 学食の入り口で待っていてくれた彼の前に着き、これだけを叫んで両手を膝について息を整える。


 1月の終わりで本当は寒いんだけど、コートも前を閉じずにそのまま走ってきた。


千佳(ちか)、どうしたんだよ。そんなに慌てて?」


 あたし佐伯(さえき)千佳(ちか)斉藤(さいとう)和人(かずと)とは、高校1年の終わりから付き合いだして、もうすぐ丸5年になる。


 それでも高校時代はあたしたちの関係は親どころか、たった一人にしか知られていなかった。


 大学に入ってから交際を発表。


 今ではお互いの両親からも、この二人はそのうちに結婚するのだろうと言われているし、昨年のアパートの契約更新を期に、下宿代の節約を大義名分に同居も許してもらえている。


 和人が大盛りのカツカレー、あたしがスパゲティ・ナポリタンをそれぞれのお盆に載せて、窓際の席に並んで座った。



「そんなに慌ててどうしたんだ?」


 いまだ落ち着かないあたしを見て、和人も何か一大事が起きていると理解したらしい。食事に手を着ける前に聞いてくれた。


「あのね、結花が帰ってくるの! 先生も一緒に!」


「マジか?!」


 その瞬間、和人も目の色を変えた。


 そう、「結花と先生」。


 この言葉はあたしたち二人には絶対に忘れられない。そして、たったこの一言で和人の頭の中にもあたしが興奮している理由の全てが理解出来たようだ。


「どうやってそれが分かった?」


「だって、これ読んだら、結花が嘘ついているようにみえる? 結花はこんな嘘つかないよ」


 あたしは、さっきメッセージが到着したばかりのスマートフォンを和人に渡した。




・・・・・


ちぃちゃんへ


こんばんは。って言っても日本はもうすぐお昼だよね。こんな時間にごめんね。


今日はちょっと大事なお話が決まったので、急いでお知らせすることにしました。


ちぃちゃんにもいろいろ迷惑とか心配かけちゃったけれど、もうすぐそれも終わりになるよ。


さっき、お仕事から帰ってきた陽人さんからお話をもらいました。


今度の春休みを目処に、私たち二人とも帰国します。


まだ詳しいことは決まっていないから、これからやらなくちゃならないこともいっぱいある。


でも、またちぃちゃんや和人くん、茜音さんや菜都実さんたちに会えるのが本当に楽しみ。


また詳しいことが決まったら、少しずつお知らせするよ。


帰ったら、また仲良くしてね。


小島結花より


・・・・・



「偽物じゃなさそうだな」


「うん、それはあたしも確認した」


 まず第一に、あたしのことを「ちぃちゃん」と呼ぶこと。


 小学6年生の時に初めて、一番親しげに呼んでくれた。あれから何年も経つけれど、この呼び方は今でも彼女一人だけ。


 もう一つ、メールのタイムスタンプは昨日の夜になっているけれど、日本時刻のJSTではなくて、アメリカ東部時刻のESTになっていること。


 これが決め手で、スマートフォンのアプリレベルで誤魔化すことは難しい。


 つまり、約半日遅れた時差のニューヨークにいる結花が本当についさっき送信してくれた第一報なんだと確信できた。


 その日の午後の授業は頭に入らなかった。それでも今月後半には後期試験もあるから、必死にノートだけは録ったけれど、頭の中はもう昼間のメールの事でいっぱいだった。


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