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【外伝】あなたが教えてくれたこと  作者: 小林汐希
15話 「妹」から「兄」へのお願い
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【15-2】 会ってくれて…ありがとう。




 数日後、私は手術室のライトを見ていた。高校2年の冬から数えて2回目の風景だ。


 あの日、お家に帰ってから、悲しい知らせを日本に伝えた。


『赤ちゃんね……、お空に帰っちゃったんだ……』


 そう絞り出すのが精一杯だった。あとはもう言葉に出来ず、泣き声だけだったと思う。


 途中から陽人さんが通話を代わってくれた。もうひとつの連絡先である陽人さんのご両親には陽人さんが電話をしてくれた。


 この子をお腹の中に留めておくことはできない。私の体が血液を浄化しきれなくなってしまうから、お別れをしなければならない。

 

 あと1日、私がこの子にしてあげられることはなんだろう。手を当てて話しかけたり、絵本を読み聞かせたりした。


 もちろん、それが意味を持たないかもしれないことは分かっているの……。


 でも、まだ私のお腹の中にいてくれる……。


 最後の瞬間まで出来ること……。食事も忘れて私は声がかれるまで絵本を読み聞かせていた。




 手術室の中は、モニターの音と器具のカチャカチャという音だけ。部分麻酔もかけられている私の頭の中は思考が止まっていた。


 約1時間ほどでそれは終わった。


「どうぞ」


 病室のドアがノックされ、先生がスライドドアを開けて来てくれた。


「ありがとうございました」


 先生は私のことをご自分の娘のように優しく接してくれた。聞けば同年代のお嬢さんがいるそうだ。


「いい子でしたよ。お母さんの負担にならないところにいてくれました。きれいに出してあげることができましたよ。よろしければ面会されますか?」


「本当ですか?」


 思いがけなかった。この週数ではまだ体も小さくて柔らかいし、会うことも出来ないとインターネット上にあった体験報告も読んでいたから。


「結花……」


「お願いです。会わせてください!」


 心配そうな陽人さんに頷いて、私が自分でお願いした。先生は一度部屋を出て、小さなトレイを大切に抱えて持ってきてくれた。


 先生は時間をかけて、そっと取り出してくれたんだ。柔らかいガーゼの上、膜に包まれた羊水の中に、その子はいてくれた。ちゃんと手足もある。目も分かる。へその緒も。まだ不完全だけど、どんなに小さくても私の赤ちゃんだ。


「ごめんね。あなたを抱きたかった……。今はお空に帰ってしまうかもしれないけど、またいつか会おうね……」


 私はその子をトレイごと抱きしめた。


 原因の調査を行うか聞かれたけれど、せっかく綺麗な姿で私に会いに来てくれたんだもの。このままそっとお空と大地に帰そうと思って首を振った。


 先生と陽人さんも賛成してくれて、保冷の箱に丁寧に入れて退院する私に抱かせてくれた。


 陽人さんが車を運転して、先生が予約してくれていた火葬場に二人で向かう。


 この子ではお骨を残すこともできない。だから、せめてもと読み聞かせた絵本と、私たち夫婦の写真、お花をいっぱい小さな棺に一緒に入れた。


「ママが天国に行けたら、今度は一緒に遊ぼうね……」


 棺の蓋を閉じるように促されても、私は時間いっぱいまでその姿を目に焼き付けていた。



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