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(EX)魔法使いの意外な弱点

 その晩、野戦病院の1室は緊張した空気に包まれていた。


 臨時に作られた集中治療室に担ぎ込まれた患者はナギなのだから。

 ナギはイズワカ城の地下に蓄えられた龍脈のエネルギーを使い、イガルタにいた遠征軍──その場に生き残っていた全ての将兵──をカルヴァ山の麓まで空間転移させる事が出来た。


 そして、ナギは最後まで戦場に残っていた国王たちと共に、無事に帰還を果たす事が出来たのだが、国王には帰還を喜んでいる暇はなかった。


 最後の空間転移を終えたナギは、そのまま意識を失って倒れ込んだのだ。

 急きょ用意されたテントハウスに運び込まれたナギは、呼吸や脈拍こそ安定しているものの、決して予断を許さぬ状況であることは間違いない……


「…で、ナギ様の病名は分かりまして?」


 エスターはベッドの脇で、ナギの診察をしていた医師(オネエ)に尋ねた。

 そう。彼の名はオネエ。一般にはエスターの御殿医を務める腕の良い医師として知られているが、その正体は医療に特化した男性型のメイドロイドだ。


 彼は指揮官クラスとして製造されている事もあり、メイド長(ジーラ)と同様に月面基地のデーターベースにアクセスすることが出来る……


「いいええ、皆目見当もつかないのよねぇ… バイタルの数値から考えると、ただの過労… にしては変だし。数値は低いままだけど、安定してるから今すぐどうこうしてしまう訳ではないと思うけれどねぇ」

「つまり、ナギ様は深い眠りに陥っている… そう言う事でよろしくて?」


 真剣な面持ちで尋ねるエスターに、オネエは両手をあげてゆっくり首を横に振る事しか出来なかった。データーベースにはナギのような症例は記録されていないのだから。

 それはナギは、未知の病気に侵されているかも知れないと言う事を意味する。


「間の悪い事に、イズワカではおチビちゃんたちも病気になったらしいのよぅ」


 エスターはナギを野戦病院に運び込むと、すぐに超空間通信のチャンネルを開いた。それはレオノールに向けてごくシンプルなメッセージを発信するためだ。


 ──ナギが意識不明。原因は分からず。発症時刻は……


 医療データを含めたテキストの送信に時間はかからない。

 わずか100万分の1秒足らずで送信する事が出来たのだが、僅か2秒後送られてきた返信の中身がこれ… なのだ。それによれば2人が倒れたのは、不思議な事にナギが倒れたのと同じ時刻だという……


「ナギが、倒れたそうじゃが?」


 ナギの診察が一通り終わった頃にやってきたのはジャアックだった。全身が汗だらけになっているのは、オネエが診察を終えるまで律儀にテントの外で待っていたからだろう。


「今のところ、原因は分かっていません。数値は安定しているのですが、このまま上位世界に連れ帰るわけにもいかなくて……」

「……そうで… ございましたか……」


 ジャアックは、ベッドに横たわるナギの姿を見ていたが、おもむろに額に手をかざすと、小さく頷いた。


「ジャアック老?」

「……これは魔力欠乏症やも知れませんな。それも、かなりの重傷。

 この装束のお陰で命脈を繋いでおるようでございますが……」


 ナギがスキンスーツ姿のままベッドに寝かされているのは、特に理由はない。

 首から下を覆うスキンスーツは、未知の物質で作られていた。そしてそれには継ぎ目が無かったので脱がす事が出来なかっただけだったのだが……


「魔力を回復させるための魔法薬があるらしいのですが、その製法はエスター様もご存じの通り失伝しておりますからな……

 残された手段は、このまま自然回復を待つだけですじゃ」


 たしかにナギが意識不明に陥った原因が魔力欠乏症なら、説明もつく。

 魔法使いは、その身に一定のレベル以上の魔力がなくてはならない。

 それを割り込んだ場合には生命が関わってくる。具体的に言えば、魔力の枯渇による死亡例も、無いわけではない…… いや、実際に死亡例もある。


「こればかりは、運次第という事になるのだが…… たぶん大丈夫ではないかな。

 こやつは熱湯をかけても死ぬようなタマではないからの」


 そう言って去っていったジャアックだが、残されたエスター達にとっては死刑宣告にも等しいものだった。何故ならば、ナギが連発した転移魔法は魔力消費量が多いのだ。それが範囲魔法ともなれば魔力消費量も級数的に激増するもの。

 いくらナギが創造神のお気に入りだとしても、限界はある。


 ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぴっ……


 ナギの素肌に直接──スキンスーツ越しではセンサーが反応しなかった──取り付けられた各種センサーからは、低いレベルにあるとはいえ、数値が安定している事を示している。

 そうなるとエスター達に出来ることは、さほど多くはない。


 センサーの数値を見守り、何かあれば臨機応変に救命措置を施すこと。

 だが、スキンスーツを着たナギにAEDが通用するだろうか……


 たぶん無理… だろう。


 未知の素材で作られたスキンスーツは、ナギに降りかかる──物理的にも魔法的にも起こり得る──全ての現象を無効にする究極の鎧なのだから……


挿絵(By みてみん)


美味しいお肉があると聞いて…

緊急時にはスキンスーツを脱がす事も出来ます。

その方法を知っているのは、ヘルマと花音だけなのですが……

ひょっとすると、司書さんも… 知っているかも?

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