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老科学者と超兵器

 小娘(ナギ)も無茶な事をするものだ。

 膨大な量の魔力があれば、大量の魔晶石を起動させる事が出来ると踏んだらしいのだが、魔法とはそんなに簡単なものではない。若いころに手すさびで妖術に手を出した事のある俺だかから分かるのだが、あの方法は諸刃の剣だ。


 どこからか魔力を持ってきて、自分の身体に取り入れる。

 そして、その魔力で魔法を発動する… そこまではいい。

 だが自身の能力を超える魔法を使い続ければ精神だけではなく、身体にも大きな負担をかけるのだ。


「自然界にある魔力や素となるもの(マナ)は、身体に取り込んですぐに使えるものではないのだ。自分の魔力として変換しなければならんのよ……」


 これは想像だが、おそらく魔力の代謝… と言う事にでもなるのだろう。

 食べた食物を消化するようなものだな。そうしないと、栄養分を吸収する事は出来ん。それと同じような事をする必要があるのかも知れん。


「……では、ナギ様は?」

「あのまま魔法を使い続けていれば、間違いなく死んでいた。妖術を使って強引に眠らせようとしたが、生意気にもレジストしおって…

 まあよい。半日も休めば身体は戻るだろう」


 茉莉の肩を借りて指揮所を離れた俺は、かまぼこ型の倉庫が立ち並んでいる区画に来た。どうも足元がおぼつかん。まるで雲の上を歩いているようだ……

 倉庫の中に入った俺は近くにあった椅子に座り込んでしまった。


 指揮所からの100メートル歩いただけで、このザマか。

 神像は早鐘のように脈を打っているし、背中からはじっとりと嫌な汗が滲みだしている。もうひとりの俺が成仏した分だけ、俺の魂魄も欠けている筈だ。

 だから、俺も長くは保たない……


 だがこれだけは…… こいつをやり遂げなくては、あいつに顔向けが出来ん。


「博士、無理をなさっては…」

「止めるな、茉莉。まだ奴らは… 魔族の侵略を完全に止めねばならん!」


 いきなり現れた巨大宇宙船──宇宙船で良いのだろう──と、あの分離した金色は設計思想が全く違うな。あとから無理矢理取り付けた感が半端ないわい。

 だが、助かった。あの巨大な金色がした事は、超音速で上空を通り抜けただけなのだが、その時の衝撃波だけで地上はこのざまだ。


「地上の敵は、あらかた片が付いただろう。だがゲートだけは別だ。あれは時空間に出来た穴のようなもの。物理的に破壊する事は出来ん」


 だから、やるしか無いのだよ。さもなくば、最初からやり直しだ。

 残された人類に、それだけの余力があるはずも無いだろう?


 さいわいロケット機と超兵器の発射準備は昨夜のうちに終わっている。

 機体を載せた台車はスロープに乗っているから扉を開けて、ブレーキを外しさえすれば、勝手に転がっていくだろう。


「誘導装置は… 問題ないな。なら、出撃するか」


 超兵器の補助翼はこっちの機体と連動して動いているのを確認した俺は、茉莉に合図を送った。ここから先は、俺だけで何とかなる。発進前の最終チェックを終えた俺は、指揮所に向かって歩いていく茉莉の後ろ姿を見やった。


 ──博士を、ずっとお慕い申し上げておりました。


 あいつは、俺がいなくなっても活動できるように──人間の中にまぎれ込んでしまえばそのくらいは出来る──と思って、自我を持たせるために躍起になっていたのだが。

 だが、とっくに自我に目覚めていたとはな…


 これで思い残す事は… 何もない。


「……行くぞ!」


 拳を叩きつけるように、セロ距離発進システムのスイッチを入れた。

 点火したブースターは機体を斜め上に向かって放り出す。身体がシートに押し付けられて、動けなくなっている間にメインエンジンにも火が入る。

 体にかかった重圧が和らぐころには、高度も500メートルに達していた。


「発進、完了… ブースター切り離し…… 今のところは順調だな」


 眼下に広がる大地は衝撃波で鋤き返され、無残な姿となり果てていた。

 あの衝撃波が何もかもを粉砕してしまったのだろう。そこに動く者の姿はない。

 その行き着く先あるのは、1本の煌めくリングだ。


 支えるものなど何も無いにも関わらず、音もなく浮かぶそれは…

 極地の夜空を飾るオーロラのように、色を変えながらゆらめく姿は幻想的とも言える美しい。

 リングの中に映し出されているものは、異世界の風景だろうか……


 その風景が照準器の中心に来るように針路を修正すると、スロットルレバーを一杯に押し込んだ。みるみるスピードを上げてゆく2機のロケット機は、風を追い越し、音さえも置き去りにしてリングに映る風景めがけて突っ込んだ。


 遅れてやってきた音が、轟と通り抜ける……


 そして、リングの中の風景が辺りを焼き尽くすかのような閃光に包まれたかと思うと、あたりは白い光に塗りつぶされた。

 永劫とも思える一瞬が過ぎ去ると、あたりが見えるようになってくる。

 だが、そこに人の手が加わったものは何も残っていなかった。


 そこにはふつふつと煮えたぎる溶岩の海が広がっていた……

反物質爆弾は、ゲートの反対側で爆発しました。

向こうの世界にあるゲートのコントロールシステムが崩壊するまでのわずかな時間ですが、こちら側への『吹き戻し』があったようです。

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