超空間に影は潜みて
ヘルマが両手を開いたその間に、何やら宝珠のようなものを浮かべて…
いえ、遠見の術とでも言った感じのものですね。
映っているのはどこか別の場所… もしかして宇宙空間ですか。
いえ、別に文句を言うつもりはありませんよ?
この戦争は神々の介入が許されない人類の戦争です。
こういう事は考えたくありませんが、魔族は『向こうの世界』の人類なのかも知れません。そう考えれば、色々な事に説明がつきます。
──人類同士の諍いに神々が介入してはならない。
それが創造神様が定めた『神々のルール』です。
もしも私たちの話題に加わる事じたいがルール違反と判断されてしまうかも。
だから、遠見の術を使ってどこか遠くの宇宙を見ていたのでしょうけれど。
でも、宇宙空間にいったい何が?
「どうやら時が満ちたかようだから」
時が満ちた…って?
上級神のあなたが、そんなに深刻な表情をするなんて。
なにか重大な事件でも起きましたか?
まさか、大宇宙が崩壊を始めたとか……
「そんな深刻な事ではないのよねぇ…
ねえ、ナギ。太陽よりも大きな『アレ』の事、あなたも憶えてるでしょう?」
この宇宙で2番目に生まれた生命体… 鉱石生命体でしたか。
でも『アレ』は固い地面と大気を持つた──惑星としか思えませんでした。
直径が200万キロもある『アレ』は、衛星軌道上にいくつかの太陽を従えて。
太陽の直径ですら140万キロメートルしかない事を考えれば、『アレ』がどれだけ大きな物体なのか、想像がつくというものです。
分かりやすい言葉で表現するなら超巨大惑星ですかね。
よくも自重で崩壊しなかったものです。
「だって『アレ』はこの宇宙で2番目に生まれた生命体よ。そして、あそこまで成長したのは宇宙の法則が定まる前だという事……」
たしかに『アレ』は超巨大惑星の姿をしていますが、生命体──それも思考の巨人とも言える存在です。宇宙の法則が定まリ始め、自らの存在が危うくなることを察知していたんでした。
そして、ヘルマに連れられて時間旅行をした時に見たのは『アレ』の最期……
ああ、思い出しました。
無数の時空連続体にいる無数の同一人物が、宇宙の法則すら当てはまらない特殊なブラックホールの底… 超空間に逃げ込んだのですよね。
そうしなければ、直径200万キロもある巨体は崩壊していたでしょう。
でも、それは紀元前80億年の出来事では?
「時空間の合があれ一度だけとは言っていないわよ?」
げ。
「ティーガ星系から3光年くらい離れた所に、超空間につながるワームホールが出来てしまったのよね」
大宇宙の大きさを考えれば、誤差とも言えない微妙な空域ですね。でもそれがどうしたのですか? あの星系は私の故郷でもありなすけれど……
まさか、あそこが危険にさらされているとでも?
「それは大丈夫。ワームホールは口を開けているだけだから」
ティーガ星系が無事なら、それはそれで良い事ですけれど… こうなる事を待ち望んでいたような口ぶりですね。
ねえヘルマさんや。私にも分かるように説明してくれる?
「簡単に言えば逃げ遅れた仲間の回収… かな」
つまりワームホールが口を開けているのは、宇宙を漂流している仲間を呼び寄せるため? 超巨大惑星は、無数の鉱石生命体が合体したものですよね。
だとすると、本来の鉱石生命体と言うのは…
「それほど大きなものではないわよ」
ヘルマは大体このくらい… と言いながら、両手を広げて見せた。
ナギはその大きさを見て、軽く眉をひそめると先を促した。
「そうねえ、ズバリ言いましょうか。 あなたはアーロイス達の事をダンジョンコアと呼んでいるけれど… あれは、なに?」
なにって…… ダンジョンコアはダンジョンコアだし。単なる魔法生物とも思えませんね。強いて言えば意思を持つ水晶玉… 鉱物生命体って所ですかね。
……まさかとは思うけど『アレ』の仲間だとか?
「大当たり。今までも何度か次元の交接があったわ。数億年ごとに、ね。
そのたびに、『アレ』は逃げ遅れた仲間を回収していったのよ」
つまりダンジョンコアは『アレ』と同じ鉱石生命体だという事で。
そして、彼らの故郷はワームホールの奥底にある超空間だと……
そう言いたいわけ?




