キノコの殺し方、教えます
あの林は異世界のモノ… か。
植生は我々のものと多少の違いはあるが、大きな違いではないな。
昨夜の宴会で、藤兵衛が飛竜が林の手前に落ちたのは運が良いと言っていたのが気になって、現地調査をする気になったのだが。
「つまらん。ごく普通の林ではないか」
同じ種類の樹が多いのは、人の手で制御されているせいか。
このあたりも我々と同じだな。野生動物まで同じなのかどうかは分からんが、害があるようには見えん。
「……先生、アレです」
護衛の騎士が指さした先には、1本のキノコが生えておる。
菌類学上の分類には当てはまらん。おそらく新種だな。
かさの部分はさしわたし1メートルくらいだな。高さは… だいたい肩くらいはあるか。あんな細い軸でよくもまあ経っていられるものだ。
それに、かさの上下から細いひものようなものが生えているのも気になる。
研究のために採集したいところだが…
「とんでもない、根元を見てください」
根元だと? ふむ、妙に盛り上がっているようだが…… あれは魔物、か?
あのキノコは動物から生えているようにも見えるぞ。
ひゅっ……
ききいぃい!
突然、ひものようなものが動くと、その先には何か動物のようなものが絡めとられている。大きさからするとリスか何かだ。
気根のようなものかと思っていたが、なにやら触手じみているな。
「あのひもはかなり力があります。前にオオカミを捕まえたのを見ました」
リスはしばらく暴れていたが、そのうちにピクリとも動かなくなった。
それを自分の根元にぽとりと落とすと、だらりと垂れ下がった……
「まさか動物を捕食… いや、苗床にしているのか……」
動物の死骸にキノコが生えるのは、別におかしな事ではない。
菌類と言うのは、森の掃除屋でもあるからな。モダテでも見た事が有る。
同族嫌悪? まあ、どこぞのシメジよりはデカいのもあったが、
所詮はキノコだろ。
ん? そうかそうか。そう言う事ならあとで相談に乗ってやってもいいぞ。
なぁに、とうに人体実験は済ませてある。死にはせんよ。
大きくなり過ぎて破裂しても知らないけどな。
まあ待て。とにかく目の前のあいつを何とかしないといかんのだろう。
「そうですけど…… 何とかなりませんかね」
触手の届く範囲は5メートル以上もあるか。だが、必ずしも本能的に動いている訳でもないな。あのまま成長を続けて、歩き回るようになっても驚かんよ。
それほど早い動きは出来ないと思うが、そうなる可能性はある。
「それは困ります!」
そうだろうな。
手っ取り早くこの林を焼き払うのがも選択肢のひとつだが… ヤツがどこまで広がっているか分からん。
それに成長しきったヤツがいれば、厄介な事になりかねんか。
ふむ、どうすれば良いかな……
「博士?」
ん、茉莉か。よく俺のいる場所が分かったな。
何か拙い事でも起きたのか?
「そろそろおやつの時間です」
おおお? それは重大事だな。では、指揮所に戻るとしよう。
今日のおやつは何かな?
「ホットケーキを焼いてみました」
なんと、それは久しぶりだな。いやいや、そう馬鹿にしたものではないぞ。
微妙なさじ加減というか、火の通し方が良いのかなのか… とにかく茉莉の焼いたホットケーキは絶品なのだよ。
これを食べてしまうと、もう……
いや、ちょっと待て。
今日のおやつはホットケーキだ……
「どうしたんですか?」
ホットケーキを作るのにベーキングパウダーが必要だ。
こいつがなくては、あのふわふわ感は出せん。
で、原料のひとつが重炭酸ソーダ… いわゆる重曹というやつだ。
知ってるか?
こいつはな、キノコの駆除にも使えるんだよ。
キノコの駆除専用の薬剤があります。重曹や塩素系漂白剤を使うという方法も。
要は土の性質を変えるなどして、菌糸を殺してやれば良いのです。




