2人の子供の正体は・・・
さすがはエスター。私の子孫たちが建造した人工知性体です。
私達の変装を、一発で見破るとは……
「変装もなにも、服を変えただけではなくて?」
うん。そうとも言う。
でも騎士団の皆さんは誰も気が付かなかったし、そのお陰で殉職者なしという偉業を達成したんだから、良しとすべきなのです。
「さすがに一瞬だけヒヤリとする場面はありましたね」
身バレの危機を乗り越えることが出来たのは、プレシアの知恵を借りて作り上げた二柄の張り扇のお陰です。
「その二柄の張り扇が魔道具… いえ、神器ですわよね?」
そんな御大層なものじゃありませんって。ただの記憶消去装置じゃないですか。
混沌神が関わっている魔道具にしては、マイルドなものだと思いますよ。
だってね、叩いた相手の──それも二秒か三秒前の記憶を消すだけですもの。
はっと何かに気が付いた、それを忘れさせる事くらいにしか使えません。
もちろんちゃんと使うためには、いくつか条件がありますよ。
たとえばヘルマが持っている張り扇を私が使っても魔法は発動しません。
必ず、特定の人物が使う必要があるということです。
それに魔道具を起動させるための魔力も大量に必要ですから……
もしもあの時に私達の正体がカズマにバレたら、間違いなく戦争の道具にされてしまうでしょう。魔族を叩く武器として。あるいは戦死者の蘇生や怪我人の回復のために……
でも、これは人類の戦いなのです。
そして今の私の──水神の『みめ』という──立場では積極的に戦争に参加するのは拙いのです。それでも戦争協力はしましたけれど。
バリスタの新型砲弾や大量の武器、そして反物質爆弾の供与。
どれひとつとっても、地元の神々に反対される事間違いなしの案件なのです。
実際に神々からのツッコミがありましたが、言葉の魔術で躱しました。
でもね、グレーゾーンを掠めているのも事実です。
そして神々のルールに縛られているヘルマは、この戦争に手出しをする事は出来ないのです。この場にいる事が出来るのは、歴史の傍観者という立場から。
そして、私の『お目付け役』… かな。
これ以上グレーゾーンに近付かないようにするための。
だから、あの時の私たちは張り扇を使うしか無かったわけで……
「お陰で、第2騎士団は砦の爆発に巻き込まれたのに、殉職者はゼロですよ」
ヘルマの言うとおり、結果的には第2騎士団の殉職者はゼロなのです。
重軽傷者は多かったけど、命さえあれば軍医が何とかしてくれるはず。
「魔晶石をいくつか使い潰しましたけど、人命には代えられないでしょう?」
実際のところ、砦に近付き過ぎた藤兵衛さん達の小隊は全滅していたのです。
さすがにオークの下敷きになったら生きてはいられないでしょう。
いやいや、蘇生が間に合ってよかった、よかった……
おや、どうしたのです。頭痛ですか?
「死者を蘇らせる魔法… ですか。ほんっ、とうに、ナギは規格外ですね……」
エスターは部屋の内装を元に戻すと、手近にあったカウチに崩れ落ちた。
部位欠損さえも修復できる範囲魔法は、理論上は存在しうる魔法だが、死者の蘇生は上位魔法のはるか上…… 禁断の魔法って……
私からすれば、エスターの言っている事の方が変… だと思う。
だって普通に学校で習ったんですよ…… たしか、そんな気がするけど……
そこまで話をしたところで、ナギは中庭に目を向けた。
ニータグで、あの小屋の屋根に擬態していた毛皮のかたまりが日光浴を楽しんでいる。その様子はネコのそれに似てなくもない。
「……そう言えば、クアルガに行く途中で例のモノを見かけたんだけど?」
それは、大きなイノブタに牽かせた数台の荷車です。防水シートがかかっていたので、中身を見る事は出来なかったけれど、とても太い筒状の物体が積まれている事はわかりました。
クレーン付きで、アウトリガーの付いた荷車、ですからね…
「ええ、神雷なら、そろそろニータグに着くころよ。それを報せに行ったら、あなたは留守にしているんだもの……」
有人型の神雷がイズワカに飛来したのは先月の話でしたか。
すでにある程度機体は完成したので、運び出しが始まっていたのでしょうか。
いいえ、たぶん、間違いなく、完成させていますね。
あの松戸先生が飛べない飛行機を出撃させるはずが無いのです。それに、彼はあの機体には並々ならぬ執着──むしろ執念とも言えるほどの、深い思い入れがあるように見えるのですよ。
その彼がOKを出したとすれば…… 本番で使う機体も完成したという事です。
それにしても、あの数はどういう事ですかね。
どう見ても5機はありましたけれど……
何故か真夜中に目を醒まして。そうなると今度はなかなか寝付けなくて。
最近は睡眠不足を通り過ぎて、頭痛がががが……




