暁の襲撃
ちゅん… ちちち…
窓の外から聞こえるのは雀の声でしょうか。
雀は警戒心が強い鳥なのですが、人の近くで生活しているのは天敵が人を避けること知っているからでしょう。これも生活の知恵ですかね。
ぱかっと目を開くと、板張りの天井が視界に入り込んできました。
モダテの里に来ていたのでしたね…… 新居で迎える初めての朝です。
ぴぃっ! ばさばさばさ……
何か生き物の気配が近づいてくるようですが…… 悪意は感じられません。
息を殺し、足音を立てないように注意しているのでしょうけれど、廊下の板張りがきしきしと音をたてていますよ。
「ミームイ…」
迎撃の準備です。単純な魔法ですから呪文も短めです。
足音が止まりました。
……来ますね?
からっ!
「なーぎー、起きてr」
板戸を開け、人影が飛び込んできましたが…
「ウォウアリフ!」
いきなり飛び込んできた人影に魔法を叩きつけてしまった私は、決して悪くないと思います。乙女の寝顔は、在るというだけでも至高の価値があるのです。
それ以前に寝室に突撃した時点でアウトです。
「ぬおおおおおおお、目がっ、目がぁあああ……」
顔を押さえて床を転げ回っているのはユーディですね。
今のうちに着替えてしまいましょう。
私も素肌を見せるわけにはいきませんから。
「ターイラー…」空気中から染み出した光の粒が頭の上に集まり始めた。
「ベーリエ…」それは不可思議な文字を記した魔方陣へと姿を変えて。
「ペーイチェー!」
最後のワードを唱えると、魔方陣はくるくる回りながら降りると、足元の床に触れて消え去った。後に残されたのはスキンスーツ姿の私です。
よし、着替え完了!
これは着替えをするためだけの魔法ですが、いくつもバリエーションがあります。
ファッションだけではなく、生活に根付いた魔法というのはいいですね。
こういうカテゴリの魔法は平和だからこそ編み出す事が出来るものです。
「……何かおっしゃりたい事はございませんかね?」
「ごめんなさい。でも……」
時計を見る限り、朝ご飯の時間にしては早すぎます。
外は明るくなり始めたとはいえ、かまどから煙が出始めたばかりの時間です。
「でも?」
「カロリーナが怖い……」
昨日会った時はけっこう元気そうでした。
食事の量が減っていると心配していましたが、ユーディが言うほどに衰弱しているようには見えませんでしたが。
何かあったのでしょうか。
「昨日会った時には元気そうで安心していたのですが?」
「怖いのは夜なのよぅ……」
「お化けにでもなりましたか?」
「……その方がマシだと思う……っ!」
何を思い出したのでしょうか。
小刻みに身体を震わせながら、ぎゅっと自分の身体を抱きしめています。
今までのユーディを見ていると、信じられないような振る舞いです。
「ユーディ、落ち着いて頂戴。貴女らしくないわよ」
猫の事は抜きにしても、ユーディは肝の座った女性です。
その彼女が、こんなにも怯えているのです。
何があったのか、今はまだ聞かないでおきましょう。
今の精神状態では口にするだけでまずい事になりそうです。
「何があったのか分かりませんけれど、とりあえずお茶でも……」
「あり… がと……」
部屋の中にハーブティの香りが広がります。
カミツレとリコリスをベースに色々を混ぜたものです。
ふはははは、落ち着け、落ち着くのじゃ……
戦争は軍用技術を進化させるものです。
その技術が時代遅れになるころに、民間で使えるようになるわけで。
電子レンジだって軍事技術の応用だったりするのです。




