鬼ごっこはとても楽しい
砦が爆発してから、一夜が明けて。
お腹が空いて目が覚めた私はちょっとつまみ食いを… と、思ったのですが。
あれだけ焼いたオークのお肉が…… 全部なくなっている?
「よお、嬢ちゃん。上手い肉をありがとうな」
若い騎士さんが、山芋のつるで編んだ大きな袋をくれたのですが……
中身はクルミですか。この時期によく… えええ、補給品から銀蠅してきた?
そこは黙っていてあげますけれど、まさか、あなたたち…
あれだけあったお肉を全部食べちゃったの?
「オークのもも肉が10本よ? まさか昨夜のうちに食べちゃったとか?」
「ああ、騎士団は24時間営業だからなあ。主に当直の連中が食べたようだな」
あなたも… ええと、タカヤさんでしたっけ。あなたも当直だったの?
なんだか疲れているようだけど。
「いや、俺は料理を手伝っていただけだ。まさか徹夜して燻製を作る事になるとは思わなかっけどな」
「ちなみに何の燻製を?」
「そのあたりに転がっているオークだが、なにか?」
う…… 情報が伝わるのが早いですね。
美味しいですよね、オークのお肉。でもね、オークは魔族がイノブタを人工的に進化を促した結果として生まれたものなのです。
これは想像ですが、魔族はオークを労働力と食材を兼ねたものとして扱っていたのでしょう。だって、武器を振り回すオークの方がイノブタの群れを突進させるよりも効果的ですもの。でもね、人工進化って……
「恐るべき技術、って奴だとは思うけどな。まあ旨いからいいだろ」
食べる事が出来る魔物がいる事を認めてくれたから、オッケー… かな。
それに… ぽんぽんと頭を撫でられて… うん、こういうのも悪くないですね。
今度なーちゃんにもしてあげましょうか。
「で、だな。野生動物なんかが戻ってきたんだが、このままでは拙い。そこで元気なヤツが砦の調査をしに行ったんだよ」
「まさか、あの砦に立て籠もるとか?」
たしかに魔族の砦は吹き飛びました。しかし外周に張り巡らされていた石塀は無傷なのです。それは魔力で強化されていたからです。でも、魔法を維持するための魔晶石が吹き飛んでいるから、今の石塀は雑に積み上げられた石の山でしか無いですよ。オーガが体当たりでもしたら、簡単に崩れ去りますよ?
「それでも、野生動物… たとえばクマくらいなら大丈夫だろ?」
それについては、24時間体制で歩哨が立つから心配ない?
まあ、とやかく言う気はありませんけどね。だって、ほら… 私達って、年端もいかない子供だもの。大人のひとにあれこれ言うなんて… ねぇ?
あ、砦の中は心配しなくても大丈夫ですよ。
爆発であそこにあった物は何もかも吹き飛んじゃったし、残り物はちゃんと掃除しておきましたから。でも、あのメーカーの敷地を全部使っていたわけではありませんよ。広さ的には大丈夫ですか?
「……塀の中が溶岩の海じゃなければ、今ごろは先発隊が出ていた筈なんだ。
砦を増築すれば、500人くらいは何とかなるそうだからな」
「ええと… カズマさんがそう言ったのですか?」
「そういうこった。だが、結果はああだ。とても使い物にならん」
あれで魔族が生きていたら、本気でバケモノ扱いしますよ。あと、あれから時間もたっていますから、溶岩と言っても流れ出すほどではないはず。
そうそう、表面はなだらかにしておきました。あとしばらくしたら大雨が降る予定ですから、溶岩もほどよく冷えると思いますけどねぇ。
「……まさかとは思うが。あれはお前らの仕業かっ!」
そうですけど、なにか? 至れり尽くせりでしょ?
水平面だって海抜41.4メートルのところで平らに仕上がっているはずですもの。重力魔法を使えば、平らに均すのだって大した手間はかかりませんもの。
いえいえ、これはサービスですよ、サービス!
じゃあ、このクルミは有難く…… いたいいたい!
冗談抜きで耳がもげるかと思いましたよ。
年端もいかない子供になんという事を… れっきとした児童虐待ですよっ!
「やかましい。子供が500メートル4方もある溶岩の海を作ったり、重力魔法で整地なんかしねえって。とりあえず団長と話をするから、ちょっと来い!」
「やなこった! ですわ」
なーちゃんと違って、私はそれなりに魔力は温存しているし、呪文詠唱無しで最上級魔法を発動させるも出来ますけれど… ちょっと楽しみますか。
もらったクルミをストレージに放り込むと、右側にだあーっしゅ!
「……と見せかけて、そのままあたーっく!」
タカヤさんの腰に飛びつくと、その勢いでくるり。
そこで勢いをつけて左側にぴょーん。
「ぬおっ!? このヤロー、待ちやがれ!」
「どこに目をつけているのです。私はヤローじゃありませんよ」
うふふ、鬼ごっこは楽し。
あとでなーちゃんに自慢出来るかも。
森の生き物たちは砦の爆発に驚いて逃げ出しましたけど……
戻ってきたら、ちょっと大変な事になるかも。




