ドゥーラ城でのラプソティ
カルネアデス計画がスタートして半月が過ぎました。
ドゥーラ城もドタバタしていましたが、ようやく落ち着いてきたようです。
「……それで、古城上級技官はどう思うかね?」
「なあ少佐殿… いやさ国王陛下。今のところは問題ねぇからあんたは寝ろ。
何もしなくていいから、とにかく寝てろ!」
どうやらカルネアデス計画のスタートと時を同じくして国王陛下も病気がぶり返したようです。あの様子だと昨夜も徹夜したようですが……
「だが、何かがおかしい。クアルガ駐屯地からは何も言ってこないのか?」
「何がだよ!」「ここまでの進軍で抵抗らしい抵抗が無いのだぞ?」
この計画は、魔族のヤポネスにある唯一の拠点を叩くというものです。
計画は1年戦争の半ばに作られたものなので、今となってはかなり修正すべきところはあるのですけどね。
たとえば出撃基地。計画ではザルーワを基点として、いくつかの地域に陣地を作る事になっています。その計画の中にドゥーラも関わりはありますが、兵站基地のひとつでしかありません。
あとは航空支援の問題ですか…… こっちは諦めるしかなさそうだし。
「そのあたりは、多分問題はあるまい。今のところ飛竜の存在は確認されていないからな」
それは全長50メートルはありそうな巨大な生物の総称です。少なくとも人類に匹敵する高い知能を持った羽の生えたトカゲとでも言いますか。
一言で言い表すなら、おとぎ話に出てくるドラゴンそのものです。
あいつらを相手にするには最低でも対物ライフルかアダマンタイト製の剣か槍が欲しい所です。そして、あのブレスも決して侮れないし……
「そのあたりゃあ、バリスタでも何とかなんじゃねぇか。イズワカからハイマンガン鋼で出来た試作品も届いてるからな」
のほほんとした表情でそう言い切ったカズマさんですが… ドラゴンの鱗を貫通した? それなら何とかなるかも知れませんね。
バリスタはアノウジの戦いで初めて投入された新兵器ですが、その正体は巨大な弓矢です。使い勝手とか、ポジション的には大砲のようなものですか。
「それにだな、バリスタも改良が進んでいるから性能も上がっているのだよ」
そうでしょうね。それで去年は第3騎士団を創設したんでしたよね。
カズマさんが率いる王宮騎士団や第2騎士団が伝統的な騎士──重装甲の騎馬兵団──であるように、第3騎士団は1年戦争で砲兵部隊だった人たちを中心に編成された部隊ですもの。
今ではオーガを相手にするならコレ!
バリスタはそんな感じの武器でしょうか。だから彼らが計画の第1ステップの要とも言う部隊になるでしょう。森林戦では全くの役立たずですが、高角度で打ち上げた無数の槍の威力は決して無視できるものではないのです。
「うむ、それこそアノウジの戦訓… だね。たぶんあれはナギの仕業だと思うのだが、本人は笑って誤魔化すばかりでね。だが戦術として見れば有効な方法だ」
そう言えば、あの竹槍の雨は誰が降らしたんでしょうね。
おかげでアノウジでは魔族の一人を討つことが出来たんです。
あれは勲章ものの大手柄なのに。
イズワカで大入道さん達が使っている竹槍と同じような感じなので、多分ナギが助けてくれたのに間違いないと思うんですけどねぇ……
「まあ、本人が言わないのであれば仕方があるまい。彼女なりに遠回しに今後の戦いの在りかたを示してくれたんだろう」
「ああ、そうだな。それに、あいつは立場的に表に出にくいだろうからなぁ」
そう言えば猫神が言ってましたね。ナギは人間じゃない、って。
かと言って妖怪かと言えば違うというし。
だとすれば、彼女は何者なんでしょうかね。
「そりゃあ、考えられんのは2つしかねぇだろ」
というと? カズマさんはどう考えてるんです?
「宇宙人か… さもなきゃ神様じゃねぇのか?」
なるほどね。前者はともかくとして、神様という線はアリかも。
あの人は水神様の… モリマロ様の大切な… みめ様ですからね。
まったく妙な所で妙な繋がりが出来たもんですよ。お陰でイズワカでは、大抵のところにフリーパスで出入りできるようになりましたけど。
それはそれで、私がこき使われる材料が増えたという事ですから、決して歓迎すべき内容じゃ無いのよねぇ……
そう言えば私の使っていた執務室なんですけど。なにげにグレードアップしていませんかね? 仮眠室のベッドとか、その他の家具なんか。
前に使っていた物の方が愛着があって… あきらめろ?
セージャ専用のベッドというか巣箱というか。それは有難いですけどね。
でもあの内装を見ていると、私はドゥーラ城に住み込みで働かなくちゃならないような気がしてきたんですけど……
24時間戦えって?
やなこった。
ドゥーラ城でも色々と話が進んでいるようで……




