きのこハウスがもう1軒
東の温室は楽園でしたが、西の温室はちょっと。
荒々しい自然そのものと言いますか……
「でも、あの焼きガニは美味しかったでしょう?」
カルキノスとか言いましたよね。大きさ的にはちょっと大ぶり… で良いと思います。ひと抱えもある大福のような胴体から、ごっつい手足が生えていて。
ヤシの実をハサミでちょきんと2つに割っているのを見た時には、ぞっとしましたけれど。
ヤシの実って見た目にたがわず、とっても頑丈な木の実なのです。
ちょっと包丁で… などと言う事は不可能なのです。
「そうかしら。私の使っている包丁を試してみる?」
さすがは創造神様のお世話係と言われるだけの事はありますね。キッチンアイテムはストレージに常備していますか。
これ、普通の三徳包丁ですよね…… お、おおおおお?
無茶苦茶に硬いはずのヤシの実が… まるで豆腐のようにスパッと切れたではありませんか。さすがは神の道具… って、これ高周波電磁剣じゃないですか。
たしかに包丁の形をしていますが、刃の部分を震わせて分子レベルで切断する工具ですよ。まぁったく、こいつは反則すれすれのキッチンアイテムです……
と、まあ… 色々ありましたけれど。
カルキノスは半身を焼いて、残りはチャーハンの具に化けました。
その量もさることながら、その味は…… 創造神様が楽しみにしている献立のひとつだとか。人類の始祖たちはそういう高級食材に囲まれているのですね。
ふん、だ。羨ましくなんかないもん。
そういえば埴輪たちが武装している理由… 何となく分かる気がします。
彼らは食事をする必要がありませんから、単純に武者修行でしょうね。
でも、ちょっと心配です。そこそこ頑丈に作った埴輪ですけれど、あの植物の種子が当たったり、食肉植物に齧られでもしたら……
少なくともあのカニなどの海のモノには用心しないと。
欠けたりひびが入る程度では済まない大怪我をしかねないのです。
そのうちに補修材の良いのを開発しましょうかね。
さて、と。そろそろ東の温室で果物でも…… ってぇ? びっくりした。
「この場所と泉の前をつなぐ専用通路を作ってみたわ。もちろん私たち専用の通路だから、他の人には使えないけど」
ひょっとして亜空間通路を? そんなのを作っても大丈夫なのでしょうか。
この時空間… というよりもこの時代と言った方が良いでしょうか。
かなり不安定になっているから、あまり派手な事は出来ないのでは?
「この距離なら大丈夫よ。エスターでさえ時空震を検出できないレベルだし」
……さよか。
つまりは転移魔法よりも安全だと言いたいわけですね?
亜空間通路なら魔力を使わないで済みますし、一瞬で移動できるのです。
意外と使い勝手が良いかも知れません。
「で、ここには小さなおうちを建ててしまいましょう。時間フィールドで覆ってしまえば誰にも入る事が出来なくなるから、とっても安全だと思うし」
つまり、誰にも会わずにいたい時なんかには好都合な場所だと。
それは良いですね。じゃあ、ダンジョンに建てたきのこハウスをここにも……
……って、建て始めた時点でバレるじゃないですか。
完全な秘密の場所というメリットが無くなりませんか?
「それなら大丈夫。次元断層の… あの人工惑星で作れば良いんだもの」
実はもう完成している? あとはここに運び込むだけぇ?
ヘルマさんや。最初っからそのつもりで温室を作りましたね?
「もちろん。そしてあなたにもメリットはあるでしょう?」
まあ、私のプライベートなんかあって無いようなモノですから。
完全にひとりでいる事なんか出来はしませんよ。
今の私は必ず誰かが近くにいますからね。
「アーロイス達は休眠期に入っているから、夏まで起きて来ないし、今なら丁度いいんじゃないかな? 最近は… してないでしょ?」
ちょ、おま! 言うに事欠いて、ここでその話題出します?
たしかに、そんなこと出来るはずがないじゃないですか。
特にあの姉妹に気付かれたら…… いいオモチャにされるのは間違いないし。
そういう訳で、色々と我慢していますけれど……
「ねえナギ、我慢は身体に良くないと思うんだけど?」
そりゃあそうですよ。精神衛生という観点からも溜め込み過ぎは良くないし。
だからと言って、ねぇ?
なあぁ? イズワカ城に今夜はお泊り会って連絡済み… ですって?
……手回しの良い事で。
きのこハウスには創造神様さえ立ち入る事の出来ない聖域なのです。
そのあたりは、胃袋をつかんだ者勝ちという事で。




