よく効くオクスリですけれど
プレシア様との会談の途中で知恵熱でダウンした私ですが……
私は上位世界の住人でも、神の眷属でもない、ただのエルフなんです。
なのに、いきなりあんなモノを見せるなんて酷いです。
アレを見て正気を失わなかっただけマシだけど、まさか知恵熱とは。
そんな歳ではないんですけどね……
でもね、翌日にはしっかりと治りました。ええ、そりゃもう、確実に。
ったく、もう… あの後輩たちには、先輩に対する礼儀と言うか……
「でも、お陰で知恵熱は治まったのでしょう? なら、良いじゃないですか」
よくない! あれはダメ、絶対!
だってね、あの姉妹はどこから情報を仕入れてきたのか知らないけど、その日の夕方には解熱剤を持って見舞いに来てくれたのよね。
そこまでは良かったんだけど……
「センパイが急に熱を出して寝込むとは思いませんでした」「…私もです」
本丸御殿の一室で寝込んでいた私を見舞いに来てくれたのは、ユーディとカロリーナ。今でも不思議に思いますよ。なぜ、あなた達が学院に行ったのか。
私は進学せざるを得ない理由があったけど、あなた達には2高という選択肢もあったでしょ?
「ねえ嶺衣奈センパイ。私達が良妻賢母になれるとでも?」
ははは。そりゃ、無理ってモノでしょ。だってあんた達は揃いも揃って……
「後輩はセンパイの背中を見て育つものですから」「ねー」
はいはい。言いたい事は、よーくわかった。たしかに広い範囲で言えば、わたしゃ腐女子だよ。でもね、ユーディ。
あんたは腐女子を通り越して貴腐神になり果てたでしょ?
それに比べりゃ私は軽症と言っても良い。むしろノーマルだ!
「まあまあ、落ち着いてくださいな」「熱が下がらなくなったら大変ですよ」
はあはあぜえぜえ…… させたのは誰なのよ、もう……
……やば。ちょっと血圧上がり過ぎたかな。たしかオネエから…
そう、その錠剤。この中でも特にβブロッカーはちょっと強くて。1日に飲めるのはたった1錠だけ。タイミングを間違えると、簡単にオーバードーズを起こしかねないレベルなのだ。
「飲み合わせについては問題ないと思いますよ」「これ、漢方だから」
オネエに確認済みの解熱剤なら問題ないと思いますが……
あなたたちの巫女服。まさか仕事を放り出してきたのかしら。
だとしたら、気持ちはありがたいけれど職場に戻りなさい。
私が言うのも難ですが、学院出身者はそうでなくても……
「いいえ、今日はお休みの日ですので」「新しい巫女装束の試着なんで~す」
へえ、古式に則った巫女装束も良いけど… ネオ・ヤポネスク様式も悪くないじゃないの。うまく和装と洋装をうまく組み合わせているじゃない。
でも水神… いえ、土地神様は伝統と格式を重んじられる方では?
「いえ、全然」「逆に、いい出来だと褒められましたよ」
……さよか。
「それでぇ、せっかく解熱剤を持ってきましたから」
なにそのでっかい錠剤。私の小指くらい… まるでヤングコーンかピクルス用のキュウリじゃない。ああそうか、煎じて飲むのね。
「いいええ、これはそうじゃなくて……」「腐腐腐腐腐……」
マテ、オマエタチ。
そういう顔をしている時は…… 間違いなく何かを企んでいるよね?
間違いなく『読んだ』後ってのが丸わかりなんだけど。
「でも、その方が『効く』んですよぉ?」
やめっ…… やめんかあ!
「大丈夫ですよ、体重に合わせて処方しなくてはならないので、サイズがアレですけど薬の効果は実証済みですから」
要らん! というか、それ以上近寄るな。
布団を剥ごうとするな! やめてえぇええ!
「痛くしないから… 大丈夫ですよぉ。セ・ン・パ・イ?」
だからそう言うのはやめ…
カロリーナ! あんたはどこでそんなサブミッションを覚えたのよっ!
2人がかりは卑怯… だから、やめてよぉぉぉぉ……
「まあまあ、すぐに済みますからね」
あああああ……
私に処方されているβブロッカーは、心拍数を減らして心臓を休ませる働きもあるのです。けっこうキツい薬なのですが、勘違いをして効果がダブるようなタイミングで飲んでしまった事があって……
運よく半日ほどで済みましたが、低血糖症と低血圧、心拍低下のトリプルパンチを喰らいました。いやぁ、あの時はマジで死ぬかと……




