ネット会議は楽しい
うえぇええ、気持ち悪いぞぉ……
身体がびっくんびっくんと痙攣を始めた。
ピーピーヒョロロロロ ピーブピヴピーガーー がガビガギャピー……
平衡感覚なんか一瞬でどっかに逝っちまった。身体の自由はきかないし、頭が滅茶苦茶に痛い。激痛なんてもんじゃない。目もチカチカするし、気を抜くと、どこかにトリップしそうだが、頭を鷲掴みにされてるのでそれすら出来ない。
……何の苦行だコレ?
「あががががが……」
永遠に続くかに思われた音の大洪水は、始まった時と同じように唐突に終わった。残されたのは静寂の世界だ。
急に騒音の海から音のない世界に来ると、それだけで思考が止まりそうだな。
『終わりましたよ』
「はぁ…… はぁ…… ……少し、休ませてください……」
あれからどれだけ時間が過ぎたのか。もしかしたら、そんなに経ってないのかも知れない。それでも、ヘルマの手が離れた瞬間に、べちゃりと潰れて流れ出しそうになったのだけはプライドだけで堪えきった。
『あなたの脳に、これから渡すアイテムや、地球で生きていくための知識や技能をマニュアル込みで転送しました。どんな生物でも脳という器官は、デジタル信号を処理する生体ユニットですからね』
「デジタル信号の形で、俺の脳に何かを『インストール』したわけですか」
『これなら数分で終わりますからね』
ここまでで数分しかかかっていない、だと?
とりあえず何をもらったのか確かめてみたいんですが、いいですかね?
『どうぞ。最初にインデックスを見てくださいね』
それじゃ… うぅう、だめだ、何か調子が出ないな。
最初にインデックス? ああ、本の目次みたいなものか。
そう意識した途端に深層意識から『何か』が浮かび上がってきた。ぶっちゃけると『思い出した』ようなものだが、見たことも聞いた事も無い内容だ。
これが脳にインストールされた… と、いうことか。
『ぐずぐずしない! ぼーっとしている暇があったら、読みなさい!』
がし。
再び頭に指が食い込んだ。
って!? ああそうか。思考を同期させて同じデータを見るのか。ネット会議で画面を共有するようなものだな。文字や画像が超高速でスクロールしていく。
『そのあたりは現地で使われている言語の読み書きと常識ですね』
なるほど、これを身に付ければ言葉とか常識とかは大丈夫なのか。
これで、現地の社会に違和感なく溶け込めるというものだ。
結構な量があるな。細かいところは後回しにしよう。次行くぞ、次!
『そこからは、隣接空間に係留しておいた「設備」の情報になります』
隣接空間?
設備?
なんじゃそりゃ?
『基本的には、これがあなたに授けるアイテムですよ』
隣接空間は、これだけでひとつの独立した世界と言ってもいい。ここに入れば通常空間からの探知は、事実上不可能になるな。そこに、ちょっとした設備を置いてあるから、そこで暮らすことも出来る、と。
……よくわからん。
どうせマニュアルとかは… ある? オッケ。次いこう、次!
これは身体情報か。
とても大事な情報だな。一般常識からすると性別はふたつか。
『身体情報は、私の遺伝情報を基にしています。事実上、一択ですよ』
聖典にある『神は自らの姿に似せてヒトを創った』ってやつですか。
そうすると、体格的にはエルフかヒトか、って感じになるのかなぁ。
均整の取れた姿、というやつだ。機能美の極み?
『うふふ、もっと崇めてくれてもいいのですよ?』
とはいえ、さっきインストールされた常識の項目とは矛盾するな。
……まあいいか、どうだって。
EEスミスの「レンズマン・シリーズ」には、多くのレンズマン達が
精神を同調させて、会議をするというシーンがあります。
今はネット会議までは実現できていますが……
近い将来には、現実がSFに追いつく日が来るかもしれませんね。




