良いものは残るのです
エスターが来たという連絡があったのは、宇宙ロボットを見つけた翌日の事。水神様はあの宇宙ロボットが、いたく気に入ったようで。
今日も出かけてくると言っていましたが、アレを見に行くのでしょう。
でも私と花音が、夜明けとともにスキンスーツを着て……
何を…って、宇宙ロボットに向けて2人で光線撃ちまくってきただけです。
そのあたりを、本丸御殿でお茶をしながらヘルマと話していたのですが……
おや貉さん。どうしました?
「烏天狗からタハマに動きありとの由。いかが致しましょう?」
「乗っているのはエスターでしょう。2機で来るのは珍しいわね。メイドに格納庫まで誘導させなさい」
「ははっ、ただちに!」
表敬訪問にしては奇妙な取り合わせですねぇ。いつもなら装甲戦闘機で来るのに、今回はその試作機まで連れて来たのというのですから。
あの機体は建前としては試作機ですが、超加速モードを実装しているし武器も積んでいるのです。標準装備は20ミリ機関砲を2門ですが、リニアガンだし。
それだけでも立派な作戦機ですよね。
念のために服の下にはスキンスーツを着込んでおきますか。
「それにしても… 埴輪大仏が出来ちゃうし、宇宙ロボットは出てくるし。
今度はエスターが来る… 何か厄介なイベントが発生しそうで怖い」
「まあまあ、そう興奮しないで。今度は大げさな事にならないと思うわよ」
エスターは気楽で… って、また私に化けて。今度は何を考えてるんですか。
たしかに髪と目の色を変えれば、全く同じに見えなくもないですけど。
スキンスーツのパターンで別人だってバレますよ?
「けけけけ。そんな筈ぁ、ない!」
だーかーら。それは止めて。
たしかに私もそういう笑い方をする事がありますけどね。
あなただって、うふぉふぉ笑いを真似されたら嫌でしょ。
おおっと、天罰とか無しですよ? やったら艦内で新技を乱射しますからね?
「ふっ、それは残念。じゃあ、そろそろ私も着替えて… と」
ぬうう、服も同じとは。いったい何を企んでいますかねぇえええ?
ヘルマが4人に増えて…… あれれ? 後ろにいた3人、消えちゃった。
「特殊な歩法があるのよ。ここをこう、そして、こう。そうすると……」
すっ… と歩き始めたヘルマの身体らもうひとりヘルマが現れて……
というのを繰り返しているから、増えているように見えたのですね。
後ろの方から順番に消えていくところを見ると、残像が一定時間消えないような何かを… ふむん。時間の流れをいじっていますね?
「あたり。そろそろ出来るようになっておいた方が良いかも」
時空魔法は燃費が悪いんだい。そんな事をしたら30秒で魔力が尽きるわい。
魔力切れで動けなくなったら……
『私が転送回収するから大丈夫よぉ… あらエスターが来るみたいね?』
ふむん。いつものコースを編隊を組んで飛んできますね。
とりあえず誘導灯をつけて… 物見台の擬装シャッターも開いてるし。
リフトは上げたままになっているから、適当に着陸するでしょ。
「こんにちわ。3か月ぶりだけど、お元気になさっていて?」
ううむ、こいつのお嬢様っぷりにも磨きがかかってきたなぁ。
正体を知らなかったら、いいとこの箱入り娘… にしか見えないわよ。
「ヘルマ様もお変わりないようで」
おおっと、1発で見抜きやがりましたよ、このハイエルフさまは!
「それはもう、すぐに分かりましてよ。ヘルマ様は十二単衣に不慣れなご様子で」
十二単衣って、がっつり重ね着しているから重量は… 20キロくらい。
重い分だけ動きにくいのが欠点ですけれど、これって意外と暖かいのです。
平安時代は今のように優秀な暖房器具や断熱材はありませんでしたから、こうならざるを得なかったのですね。
「色や柄は水神様の見立てなのです」
「……はいはい、御馳走さま。相変わらず仲のよろしい事で、よろしゅうございますね。 ……けっ!」
それはそうと、貴女たちのお召し物も独創的なデザインですね。
いつものドレスはどうしたのです。どちらかというと、私のスキンスーツに近いですかね。大きなセーラーカラーというのは印象的ですけど。
これは国連宇宙軍のパイロットスーツ、ですか。ルーシルートも似たようなモノを着ていましたね。そうすると、やはり?
「ねえ花音。あなたの艦内服と似てるような気がしない?」
『あんなに大きな襟はついていないけれどね』
基本的なデザインは25世紀経っても変わらないなんて。
良いものは、いつまでも残るという事ですか。
国連宇宙軍のパイロットスーツは簡易宇宙服になる優れもの。




