表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
880/1000

公務員は拉致られる

 空の旅は楽しいものと言いますが……

 その醍醐味は、空の上からの景色を楽しむものだと思うんです。


 地上を見下ろせば、眼下に広がるのはミニチュア・アートのような景色。

 果てしなく広がる雲の海は、記紀(きき)に記されている高天原(たかまがはら)を彷彿させるもの。

 そして、遠く遠く、遥かな先に広がるのは… 丸い、丸い地平線。


 これが昼間ならば、ですけどね。

 例によってメイドが来たのは真夜中──それも午前3時です。

 夜間飛行がデフォになりつつあるのですけど、たまには空からの景色を楽しみたいと思うのは、私のわがままですかね。


「シオカは大騒ぎになりますが。嶺衣奈(れいな)様はそれをお望みで?」


 それは分かっていますよ。人間は決して空を飛ぶ事は出来ないのです。

 空を飛ぶ事が出来るのは神様。そして竜や鳥…… だけですから。

 でもね、私が乗っている飛行機の飛行高度は高度30メートル。

 それも夜間飛行ときては、ヤバさ120%です。


「多少のスリルこそは人生のスパイスではありませんか? エスター様からはそのように伺っておりますかれど」

「……何かが違う」


 有無を言わせずに、飛行機に乗せられた私ですが… いつものものとはデザインが思いっきり違いますね。トンボみたいなシルエットですが、ずいぶん華奢な感じがします。

 なんか、こう… 飛んでいるうちにポキンと折れたりしませんよね。


 これでドラゴンと空中戦をした事がある? それなら大丈夫かも。

 いえね、寝る前に読んでいたのが、そういう内容の本だったので


「嶺衣奈様がお読みになっていたのは、おそらく……」


 そうですよ。よく分かりましたね。そう、あれの続編ですよ。

 発行までに間が開いてしまったから、本編から読み直していたんですよ。

 読むのを止めて熟睡していれば、無理に起こしてまでも連れ去られる事は……


「その時は、現地でお目覚めになられたかと」


 むう、私が拉致られるのは決定事項なわけですか。

 それはそうと、毎回のように拉致られていると……


「エスター様は、例の書籍をお譲りしてもよいと仰っていますが」


 まさか15年前に西館で限定発売されたアレですか?

 あれが現存していたとは。岩波先生も現物は残っていないって… いえ、原稿はあるけど挿絵の印刷がね…… 活版印刷しか出来ないから絶対に無理。

 絶対に再版は出来ないアレは同じ重さの純金よりも価値があるのよおぉお。


「では、商談成立という事で」


 仕方がないわねぇ。話に乗るしかないじゃない。

 で、理沙さん達に話は? オッケ、通してあるなら問題ないわね。

 あとは着替えとか、行き先だけど。


「このままイズワカ城に参ります。すでにエスター様も出発されたかと」


 げ、イズワカかぁ。

 4月になったとはいえ、あっちは雪が残ってても不思議が無いのよねぇ。

 だとすれば防寒服とか…… 用意してあるって? 手回しの良い事で。

 あのモフモフは着ごこちが最高なんですよ。


「今回は新しい防寒服を用意致しましたので、お楽しみに」


 彼女のお屋敷には、私専用に割り当てられた部屋があります。そこは身体ひとつで訪問しても問題のない環境が整えられているのです。

 お抱えデザイナー(しんかんちょう)が何か企みましたかね……

 クバツ山の神殿の神官長は趣味人というか、ちょっと変人ですから。


 季節ごとの祭礼では、エスターにコスプレさせるし。去年の暮れは年またぎのニューイヤーコンサート… という名のアイドルコンサートをやっちゃったし。

 それでも宗教的な禁忌には触れていないし、このあたりにかかる経費もすべて寄進… それも、不思議な事にどこからも苦情が出ていなければ……


「しかし、彼の行ないに法に触れるよう点は御座いませんよ」


 たしかにね。彼はとてつもなくグレーゾーンに近い領域を… 嫌らしいくらいにギリギリを攻めてくるの。合法か違法かの判定を下すのなら、合法だもん。

 そういうとんでもねーヤツなんだけど、服飾デザイナーとしての腕前もなかなかのもの。


「今度はどんな服を仕立てる事やら…… はふ……」

「到着まではあと2時間というところでしょう。このまま雑談を続けても構いませんが、少し仮眠をとられては?」


 うん、そうする。さすがに徹夜は拙いからね。

 栄養ドリンクがあったら… うん、オッケ。ポケットに入れっぱなしにしてたのがある… 朝になったら、こいつを飲むとして……


「じゃあ、悪いけど…」「お休みなさいませ。よい夢を」


 とにかく、今は体を休めますかね。

嶺衣奈ちゃんたら、いつもメイドい拉致られているような……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ