モダテの大門にて(前編)
お寺の山門にエルフ好みの優雅さを加えると、こんな感じになるのですね。
決して目立つ装飾もないし、武骨なところなどない筈なのに、門としての存在感はバッチリです。
これがモダテの里の正門なのですね。
扉の両脇には街道に目を光らせている武士の姿が見えます。里には基本的には誰でも入れるとはいえ、誰だって招かざる客の入門だけはお断りしたいものです。
そうした者が入ってこないように見張っているのでしょう。
「ぃよう、ナギ様でねえか」
門に近づくと、甲冑を着た武士が片手をあげて挨拶をしてくれました。
彼の事はよく憶えていますよ。名前はゴンスケさん。
彼は無頭鬼と戦っていた武士の一人です。
「よかった。怪我は治ったんですね」
「あン時はありがとうよ。おかげで命拾いしたよ」
彼が無頭鬼に蹴り飛ばされ、家ほどもある岩に叩きつけられたのを見て、とっさに治癒魔法を飛ばしたのです。歩ける程度にしか回復できないような低レベル魔法だったのですが、この様子なら大丈夫ですね。
「後遺症とか大丈夫です?」
「大事ねぇよ。ある程度の事はしゃーあんめぇ」
……武士と言うのは、すごい人たちですね。
魔法が間に合わなければゴンスケさんは確実に命を失っていたはずです。
それなのに、大したことではないと笑い飛ばせるのですから。
「なあ嬢ちゃん」
「え?」
ゴンスケさんより立派な鎧を来た人が話しかけてきました。試合場でザーラックさんの隣にいた人ですね。何か複雑な表情をしていますが……
「嬢ちゃんが何を考えてるか判んねぇけどよ。俺らは武士なんだ」
武士とは命ある限り民を護り闘う者…… ですか。
「望んで武士になったんだからナ、その位はやんねーとまずかっぺ?」
「んだ。俺らが死ぬときは民のためだかんな」
あの人たちからいま…… 大切な事を教えてもらったような気がします。
だってあの時の私は。
超人とも言える身体能力で無頭鬼をねじ伏せただけです。
それは、ただ闘うためにだけ、ただ暴れるだけの行ないでした。
「……私なんか、まだまだですね」
「それで良いんでねぇか? わかってくれたんだら、それでいがっぺよ」
「初めから何でも出来たら神様だっぺ?」
「わはは、ちげーねぇ」
ゴンスケさんの一言でどっと笑いの輪が広がりました。
促されて門をくぐると、どこからか風に乗って花の香りが流れてきました。
一直線に伸びる大通りを飾るのは、派手なところは無いけれど、決して武骨ではない街並みです。
「……きれいな町並みですね」
「そう思うか?」
「ええ、とても……」
鎧を着た人が私の肩に手を置くと、にっこりと笑って。
「ようこそモダテの里へ。これからよろしく頼むぜ」
「私の方こそ」
「で、来た早々で悪いんだが……」
本当に申し訳なさそうに言いますね、この鎧の人は。
無理難題を吹っ掛けようというならこのまま帰りますよ?
「2の姫様が重い病気になったんじゃねぇかって噂でな。あんた医術の心得もあるんだろ? 診てやってくれねぇか?」
「病気…… ですか?」
「俺らの前では気丈に振る舞っちゃいるが、ありゃあ、かなり無理をしてるな。
それが分かっちまうからなぁ。痛々しくて見てらんねェんだよ」
なるほど。
図書室で食っちゃ寝をしているだけではなかったのですか。
シェイプチェンジの魔法が上達するわけですね。
彼女の『病気』には心当たりがないわけではありません。
でも……
あの方法、効果がありましたね。
戦争というものは、もっともらしい大義名分を掲げていても…
いつの時代でも資源と食糧の奪い合いなんですよね。




