イン・ザ・ジャンクション
惑星アヴォニア… それが我らの母なる星の名だ。
惑星アヴォニアの歴史は、運命の手で閉じられてしまったがために。
運命の神にとっては単なる暇つぶし、軽い悪ふざけかも知れないが、そのために我々は絶滅していたかも知れないのだ。
ゆえに余は神々を敬いはするが、同じくらいに恨んでもいる。
運命の神は何を望まれたのかは知らぬ。
だが、聞いてくれ、地球の同胞たちよ。
アヴォニアがいかにして滅んだのかを。
そして我らがいかに生き延びたのかを。
鉱山都市カップン=ヌアが壊滅してから半月ほどたったある日の事だ。
このころになると、頻繁に通信障害が起きるのは、それだけ反物質隕石の数が増えてきたという事でもあるのだな……
それに宇宙輸送船の生産も限界に来ていたのも事実だ。
「それもこれも魔族の侵攻が原因だな。奴らのせいで鉱山都市が次々に壊滅したために、建造計画は大幅に遅れる事になったのだよ」
ハイ・Eが言う通りだ。本来の計画通りなら10隻のヴィルマーナ級はすべて離陸し、太陽系のはずれに到達しているはず。宇宙艦隊と宇宙輸送船は、そのための時間を稼ぐために奮闘していたのだ。
だが、ここにきて計画は大きく遅れる事になる。
その原因こそが、魔族による侵略だった。
ヴィルマーナ級さえ完成すれば何とかなる筈だが、魔族はそれを待ってはくれなかったのだな。魔族たちは、針路上にある全ての都市を滅ぼしながら、まるで巨大な津波のように中心都市クエティ=ラに向けて進軍を続けたのだよ。
「たしかにねぇ…… 移民船は出発するまでが大変なのよねぇ」
かつての地球でもメイフラワー級宇宙船を量産していたけれど、衛星軌道上に宇宙造船所を配置するだけでも大変な苦労があったとか。
船体の建造を数年で終わらせることが出来たのは、月で採掘したレゴリスのお陰ですかね。でも中の機械とかをを作るのが大変で……
なんだかんだで出航まで10年がかりの大プロジェクト… だったそうです。
「地上で宇宙移民船の建造を、それも地下資源を採掘しながらでは……」
口に出来ないような大変な苦労をした事でしょう。人手が足りない部分は機械人形の投入で何とかしたそうですが。だとすれば機械人形がすんなりと社会に溶け込むのも、メイドロイドをはるかに凌ぐレベルまで進化したのも頷けると言うものです。
「機械人形は我々が生み出した補助種族のようなものだからね。それぞれ個性があるから、付き合っていても飽きはこないな」
話を聞いているうちに、機械人形というネーミングはどうなのかという気がしてきましたよ。自律制御で動き回り、ちゃんとした人格もあるのです。
もはや彼らは人形というよりも……
メイドロイドとは違った進化を遂げた、いわば人造人間でしょう。
「機械人形に求めたのは市民生活の補助だ。それにこれは愛称でもある」
そのために生み出した機械人形だからね。重労働をさせるわけにはいかん。
それに鉱山で働くのはあくまでも人間の仕事だ。
なによりも人間にしか分からない微妙な勘どころというものがある。
機械人形は、どう頑張っても職人になるのは無理なのだよ。
たしかに殿下の言う通りかもしれませんけれど……
自我があるという事は、その頭脳回路は自己教育型。
進化の可能性は残されていますよ?
「余としては、このままでも構わないと思うのだが… ナギ殿の意見にも一理あるな。そのうち学者に検討させる事にしよう」
それが良いと思いますよ。
あっと、話が横道にそれましたね。そろそろ本題に戻りましょうか。
「うむ」
魔族の侵攻部隊は鉱山都市アラン=モオにも迫っていた。
アラン=モオは、ほんの半年前までは人口は1000人ほどの小さな──入植地と呼ばれていた小さな鉱山集落に過ぎなかった。
鉄の生産をメインとするアラン=モオが『都市』の名を冠する事になったのには理由がある。中心都市に最も近い入植地であるのと同時に、近隣の3つの工業都市をつなぐ物流の中継点だったからだ……
だから魔族の侵攻が始まると、すぐに防衛力の強化が図られる事になった。
優先すべきは街道のさらに先にある都市なので補給は多くは無かったが、この新しく建設された都市は、新しい都市に特有の勢いがあった。
彼らいわく、職人がモノ作りをしなくて、何をすればよいのだ。
無いならば作ってしまえ… とね。
「たとえば余らが使っている地上走行車の最新モデルは彼らが作ったものだ」
そして、近くの鉱山からは90ミリ砲の砲弾を自前で作れる程度には、採掘が出来るようになっていた。色々と試作品も作っていたようだね。
戦時体制と言っても、彼らにはまだ余裕はあったのだよ……
この時期の主要登場人物のほとんどがアンドロイドかも……




