聞いていませんけど?
かなり強引というか、それとも贅沢と言いますか。
あのピラミッドは、ケチラス号に積み込まれたランダーだそうです。
そして特別製… なんですよ。
だって、乗っている人が……
「余は、アヴォニア王アイ・Nが息子、ハイ・Eである」
……こうですからねぇ。
着陸したピラミッドから出てきたパイロットっぽい女の子──と、言っても人間ではありませんね。どう見ても人造人間ですが、ハイファ達とは毛色が違うと言いますか…… 彼女から事情を聞いた私たちは、再び浮き上がる事に成功したピラミッドをイズワカ城に誘導して。
本来の乗客だという男の人を本丸御殿に案内したんですよ。
とりあえずお茶でも… という事になったのですが。
「願いを聞き届けてくれた事に礼を言う。まさか移住が認められるとは思ってもいなかった事なのでね」
こんな風に気さくに話す、人懐っこい笑顔の人ですが…… 王様のムスコ……
えええええ?
「まさか次期国王陛下が御出座になるとは、思ってもいませんでした」
聞けば、王様は別の──ヴィルマーナに乗っているのだとか。
1番偉い人がネームシップ──1番艦に乗るのはまあ当然ですけど。
と、いう事はケチラス号って……
「うん。これは2番艦だよ」
ケチラス号はコペ・Pさんやスチャラ・Kさんから、王都で建造されていたと聞いていましたが…… まさか2番艦だったとはねぇ。
たしかに言っていましたね。これはヴィルマーナ級打撃戦艦… って。
「うむ。全部で10隻が建造される運びとなっていたんだ」
それはともかく、ハイ・Eさんって… 皇太子殿下という事になりますかね。
連れてきたのは、後ろのおふたりだけですよねぇ。それって王族としてはどうなんですかね。
大胆といえば聞こえは良いですが、ちょっと不用心すぎませんか?
「あのピラミッドには、それほど余裕がなくてね」
定員5人って… あれ、3階建てのビルくらいの大きさはありますけど。
エネルギー・タンクが全体の6割。太陽水晶もラークッジ級のものを使っているって…… 王族スペシャルって感じですかね。
で、皇太子殿下が地上まで御出座になる理由を伺っても?
「家来がなかなか帰ってこないのでね。心配になって様子を見に来たのだが」
「もしかして、コペ・Pさんとか?」
やっぱりね。彼はケチラス号の船長だし、スチャラ・Kさんもそれなりに立場のある人だと思うし。いちばん地球に移住したがっているのは、あの人かも。
でも、そういう人たちが出ずっぱりというのは問題ですね。
「……ハイファ、悪いけどあの2人を呼んでくれる?」
「かしこまりました」
これでよし、と。
まさかとは思いますが、あの人達は医務室で寝ています。
それはね、病気でも何でもなくてね。
「二日酔いでダウンしていますから、時間がかかるかも知れませんが」
「はっはっは…… 二日酔いだって? 我らアヴォニア人が二日酔いなど…
にわかには想像できないな」
ふむん。
症状なんかを聞き返してこないという事は、アヴォニア語にも二日酔いに相当する単語はあるのですね。
ならば、それがどんな症状かも分かると思いますが……
あれだけ呑んでいますから、相当にキツいと思うんですよ?
体内のアルコールは薬で強制分解できますけど、その時に出来る二日酔いの原因物質まではどうにもなりません。本当はこれだって対処が──魔法を使えば何とかなるけど、そんな事はしてやらん。
頭痛と吐き気でのたうち回っていればいーんだ。
まさかあの人数で、一斗樽を2本も空にしたのが悪いんだい。
まあ、興味があるのなら、今夜にもお出ししますよ。どのみち殿下も泊まっていくのでしょう? ピラミッドのエネルギータンクが一杯になるのは、明日の朝までかかりそうですから。
そうそう。エネルギータンクの洩れ対策は、何とかなるかも。まだ実験中なんですけど、魔石の粉末が混ざった塗料でコーティングすれば……
当座しのぎでしかありませんけど、無いよりはマシでしょう。
「かさねがさね、済まないな」
いえいえ、それほどでも。
一斗樽の容量は約18リットル。1升瓶にして10本分。
さらに言うなら、中身はあの液体燃料もどきだったりしますから……




