空の騎兵隊、ここに参上!
宇宙船の上空を陣取ったドラゴンは、優雅に大空を舞っていた。時々は威嚇するように急接近してくる事があるものの、攻撃を加える様子はない。
まるで、ビロー・Nの覚悟をあざ笑うかのように。
「せめて一矢報いてやりたいところだが……」
船体のあちこちでは装甲版が焼け焦げ、脱落している所もある。
いまや宇宙船は空中を漂うだけの残骸でしかない……
やがて上空を周回するのも飽きたのか、ドラゴンたちは一斉に口を開けた。
その奥に、小さな太陽と見まがう光の塊が見える。
それを見たビロー・Nは、ニヤリと笑った。
「ふ、ふはははは… さあ、ドラゴンよ、撃ってこい!
上手く当てたら、褒美をくれてやるぞ」
おそらく次の攻撃で、この宇宙船は沈むだろう。
だが、それは同時にドラゴン達の最期でもある……
だが、ドラゴンが炎の塊を吐く前に、夕闇の迫る大空を切り裂いて光の帯が通り過ぎた。いや、光の帯よりも暴風といった方が良いかも知れない。
それほどに、それは暴力的なものだった。
「あれは素粒子砲か…… どうやら助かった… か?」
素粒子砲弾がドラゴンの舞う空間を怒涛の如く駆け抜けた後には、何も残っていなかった。無数のドラゴンも、そして大気さえも。
素粒子砲弾は針路上にある物質を、分子以下のレベルにまで分解する……
「どうやら味方のようですが… どこから来たんでしょう」
「その通りだ。このタイミングで飛べるのは我々だけだと思っていたが」
ビロー・Nは、立ち上がって素粒子砲弾が飛んできた方向を眺めた。
茜色の空を背にして近づいてくるのは10隻ほどのシャカンナ級だった。
いつもの、見慣れたシャカンナ級とは、何となくイメージが違うが……
「船長、通信が入っています」「つなげ」
通信士がコンソールを操作すると、聞き慣れた声がスピーカーから流れ出した。
『お待たせ。怪我人とかは、大丈夫だった?』
「……コペ・Pか?」
彼は参謀本部か訓練学校に行くものとばかり思っていたが、まさかケチラス号だったとは。どうやら先を越されたようだが、奴なら納得も行く。
どのみちヴィルマーナ級が進宙すれば、宇宙艦隊はそれらの格納庫に収まる事になっているのだ。彼の場合は、それがちょっとだけ早まっただけだ。
『今回の事を艦隊司令に進言したのも僕だから、一応応援にね。
それにケチラス号に乗る事になったから、そこの艦隊を連れてきたけど…』
「まあまあだな。少なくとも遅刻はしなかったようだぞ」
実際のところは遅刻寸前で、ギリギリセーフ! という状況だ。
あと少し遅れていたら、ドラゴンの集中砲火を浴びていたのは間違いない。
ビロー・Nは、ぎりぎりのところで命拾いをしたのだ。
「…とりあえずは浮いているが、身動きがとれん。曳航してもらえるか?」
『了解。ところでカップン=ヌアはどうなったの?』
「どうやらドラゴンの巣になっているようだな。我々を襲った奴は、あそこから出てきたからな」
とにかく、今回の任務は失敗だ。スチャラ・Kには悪いが、タングステン合金は諦めてもらうしかない。鉱山都市カップン=ヌアは、無数のドラゴンがはびこる呪われた土地になってしまったのだから。
『とにかく帰ろうよ。僚艦に支度をさせてるからさ』
「すまん、助かる」
何隻かのシャカンナ級がトラクター・ビームで船体を引っ張ってくれた。
これなら、遅い時間になるが、今日中に帰り着くことが出来るだろう。
『あ、そうだ。言い忘れていたけど、タングステン合金は無事だよ。ここに来る途中で輸送隊を見つけたんだ。
最近はドラゴンが多いから古い街道を使って運び中だってさ』
物資は陸上輸送中だったのか。連中だけでも無事だったのは運が良かったな。
それに輸送車を護るために、あの90ミリ砲を積んだのも一緒にいる筈だ。
だから艦隊がサポートしなくても何とかなるだろう。
「これだけの距離を地上走行車で運ぶなら、最低でも3日はかかるかな」
『出たのは昨日の朝だって。輸送隊からの連絡では明後日には着くらしいよ』
なら、安心だな。あとは我々が帰り着けば良いだけだ。
それからしばらくして艦隊は、鉱山都市を後にした。
彼らの背後には、煮えたぎる溶岩を湛えたクレーターが残されていた。
そこは鉱山都市カップン=ヌアと呼ばれていた、場所……
コペ・Pが連れてきたのは、シャカンナ級をベースに作られたドラゴンとの戦闘に特化した飛行砲台です。




