鉱山都市カップン=ヌア
コペ・Pの考え出した方法は、手間はかかるが理にかなっていた。
どのみち宇宙輸送船がぶちまけた『砂利』で砕き切れなかった隕石は素粒子砲で破壊していたのだから。
「ある意味では、これが最適解だったという事かな」
工場から発射された宇宙輸送船は、内惑星軌道のはずれで合流した2隻の宇宙船がトラクター・ビームで引っ張っていくだけの事だ。
積み荷をぶちまけるタイミングはタイマーを使った。
実にシンプルだが、効果的だったよ。
こうして次々と破壊されていく隕石だったが、中には目の届かないものもいくつかあった。直径数メートル程度の隕石は、小さすぎてレーダーでも見つけるのは困難だ。
しかしそのクラスならば、アヴォニアに衝突しても問題はないと考えられていたからだ。ほとんどは惑星に衝突する事もなく通り過ぎて行ったが……
「太陽に落下したいくつかの隕石の中には、反物質のものもあった」
それで太陽が爆発するような事はなかったが、太陽の表面で異常爆発を起こす引き金になったのは事実だ。それに異常爆発で生み出された放射線や荷電粒子を宇宙に撒き散らすだけで済むのだから。
「だが、それがアヴォニアに向いた面で起きると、厄介な事になる。たった数日の辛抱だが… 知っての通り太陽もまた自転しているからね」
地球から見た太陽は──極地方と赤道付近で多少のずれはあるものの、約26日で1回転する事が分かっている。アヴォニアの太陽でも似たような事があっても別に不思議ではない。
とにかく太陽の自転と惑星の位置関係から、太陽の異常爆発の影響を受ける事もあった。地球ならば深刻な事態に陥ったかもしれ合いが、太陽水晶によるエネルギーシステムを採用していたアヴォニアでは通信障害が起きる程度だ。
それも長くてもせいぜい1週間程度だから、重要視する者はいなかった。
「だがな、その間にドラゴンが出たのだな」
最初にドラゴンの襲撃を受けたのは、鉱山都市パクスー=ル。
ここは宇宙輸送船の電子頭脳の──中枢部分の主力生産地だった。
他でも作ってはいたが、あそこは最初に回路の焼き付け技術を生み出した所なので、生産能力も性能も段違いだった。
アヴォニア人にとって不幸だったことは、それまで戦争と言うものをほとんど体験してこなかった事だろうか。パクスー=ルは一方的に蹂躙され、滅亡した。
そして、このような災難は、他の都市でも起きたのだが……
通信障害がおさまってみると、無数の都市が廃墟と化していた。
それから、大砲の改良をはじめて、何とかドラゴンとの戦いにも一定の戦果が現れるようになり、都市の壊滅だけは防ぐことが出来るようになってきた。
だが、都市を見舞う不幸はそれだけではなかった……
「被害はそれまでの中規模な都市だけではなくなったのだよ」
それはドラゴンの襲撃が始まってから、半年ほどが過ぎたある日の事だった。
鉱山都市カップン=ヌアは、中心都市クエティ=ラを離れること、500キロの場所にある。ここではヴィルマーナ級宇宙船の3番艦が建造が急ピッチで進められていた。豊富な地下資源があるお陰で、建造中の宇宙船も中心都市よりも早く完成しそうな勢いだ。
いくつかの黒い点が現れたのは、東の空が明るくなってきたころのこと。
みるみる大きくなってくるそれを見た砲兵たちも、のんびりしたものだ
「……またドラゴンか」
都市の外周にそって建設された砲台では、そんな空気が流れていた。長砲身型の90ミリ砲と特殊砲弾──軟鉄の砲弾にはタングステン合金で作った槍が仕込まれている──があれば、ドラゴンを屠る事は難しい事ではない。
問題は砲弾を作るのに手間が掛かる事だが、ストックも充分にある。
それに、飛来するドラゴンの数は数匹だ。
これなら若い砲兵が標的射撃の練習をするには良いかも知れないな……
砲台を指揮するはのは、予備役から招集された老兵だった。
彼は砲兵として永らく都市を守り抜いたベテランだったが……
「撃てぃ!」
彼の命令で、いつものように大砲が轟音と共に砲弾を吐き出す。
それに続いて近くの砲台からも大砲の発射音が響き始めると、ものの10分もしないうちに、ドラゴンはすべて撃ち落とされた。
それを見た老兵は耳当てを外すと、ほぅ… と大きく息を吐き出した。
しばらくすれば、若い砲兵たちがいつもの通りに後片付けを始めるだろう。
その後で、ちょっとした反省会だな。砲弾の装填に……
さくっ。
そこまで考えた老兵は、急に背中に衝撃を感じると、胸から何かが生えているのに気が付いた。
それは、磨き抜かれた鋼鉄のようだが……
「仕上げが、荒いな……」
それが老兵の最期の言葉だった。
今回使った砲弾は、硬芯徹甲弾という対戦車用の徹甲弾。装甲を貫くのに特化したものですね。これって、とっても硬いタングステン合金の槍ですが、今では違う材質のものもあるらしいです。




