ダイエットという名の・・・・・・
モダテの里では妹姫が身を軽くするため何やら頑張っておる。
そうしてくれると麿としても有難いものでおじゃる。
妹姫は麿の眷属が苦労して柔らかくした地面を踏み固めしまうゆえにのう。
姉姫が春の彼岸の儀式の折に、その様子を面白おかしく語って聞かせてくれたのじゃ。たしかダイエットと申したか。
食事の制限や適度な運動で身体を内より整える技でおじゃる。
王国が出来上がる前の時代には、それが日常であったものよ。
「……でね、ナギったら可愛い腹巻を作って着せたのよ」
「腹を冷やさぬようにするのは善きことでおじゃるな」
実に健康的な事である。
それもナギが妹姫を思いやっての事とあれば、なおの事でおじゃる。
なんと心優しき行ないであろうか。
無頭鬼を易々と叩き伏せるナギの姿は悪鬼羅刹もかくやというモノであるがゆえにのう。
「その腹巻ね、脱ごうとすると抵抗するの」
「なんと面妖な……」
「ナギが言うには、一種の寄生生物なんだって。まるでキノコみたい」
「……キノコ、でおじゃるか?」
一部の例外はあるものの、キノコは朽ち木や弱った樹などに根を下ろして育つのものでおじゃる。動物のフンや死骸などにも生えている事があるの。
これは森の掃除をし、なおかつ樹木の生長を助けるという役目ゆえのこと。
換言すれば森の健康を整えるための大切な営みでおじゃる。
「腹巻は魔道具の一種なんだけど、魔力を込めるとか魔石とか必要ないんだって」
「それではただの腹巻でおじゃろう? それが抵抗するとはいかなる事じゃ?」
「必要なエネルギーはカロリーナの身体から吸い取るとか」
「ほほほほ。まさに寄生であるの。まさにキノコでおじゃる」
さすがの麿も、これには失笑を禁じ得なかったのじゃ。
腹を冷やさぬための腹巻が、自らの使命を果たさんがために宿主から離れる事を拒むとはのう。
忠義に篤き、まこと天晴な腹巻でおじゃる。
「ナギは身体のサーボウ? のミチド… を変えるとか言ってた」
むむ、身体の細胞の密度を変えて体型を整えるのであるか。
戦においては鎧要らずの無双者で名を上げる事も出来ようが、諸刃の剣ぞ。
なにやら危険な香りがしてきたのじゃ。
「最近の妹姫は動かなくなってはおらぬか?」
「なんでわかったの?」
「動かないのではなく、動けないのでおじゃる。最近は食も細くあろう?」
「……はい」
やはり… そうであったか。
細胞の密度を高くするというのはかような危険も含んでおる。
まあナギの事じゃ。そのあたりの配慮はしておろう。
「最近は古文書を読んでいるか篳篥を吹いているだけで……」
「ふむ、それはそれで頼もしいのぅ」
「果たして… そうなのかなあ」
「古典を嗜み、歌楽の素養を身につけるのであれば、悪い事ではなかろう」
桜の花も盛りを過ぎて、牡丹の花が見頃になる時期が巡って来たの。
明日にはナギが祠に来るであろう。
どのような歌を詠むか楽しみであるが、妹姫の一件も加わるとは。
なかなかに楽しげな局面になりそうな予感がするのでおじゃる。
「そろそろナギも来るのであろう?」
「週末には屋敷に来ると報せがありました」
「では、ナギの出方次第であるな」
細胞の密度が高くなれば身体を動かすも苦労であろう。食事をしても栄養分を取り入れる事すらままならぬ。そこに腹巻が身体から養分を吸い取るとは。
古典を嗜んでおるのは善きことではあるが、そうでもしなければ飢えをこらえる事など出来はすまい。自業自得ではあるが難儀な事よのう。
「水神様はカロリーナが心配ではないのですか?」
「あと数日のことならば命の灯が消え去る事もあるまい。それにのう……」
ナギも思い切った事をするものでおじゃるな。
腹巻のお陰で食事もままならず、余分なものは搾り取られる。
あの体格なら水だけでも大丈夫であろう。
米俵2俵分の目方がどれだけ減る事になろうかのう。
「ナギのした事はの、理不尽とまでは言えないのでおじゃる」
この場合はダイエットの名を借りた荒行であるな。
……まあ、それも善かろう。
おうち時間が増えて…
お菓子をもしゃもしゃ。
カフェオレをごくごく。
……肥大するウエスト。
いやぁあああああああ!




