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これは訓練ではない

 門松の打ち上げもつつがなく終わったのじゃ。

 これで、正月の行事は全て終わったのう。

 天守閣から市街地を見やれば、色とりどりの凧が舞っておる。


 うむうむ、あれは良いものじゃ。

 こういうものは、エルフも妖怪もドワーフも関係ないのう……

 子供たちの喝采と笑顔が目に浮かぶと言うものよ。

 だがのう、同じ笑顔でも……


「花音が、やたらとニマニマしているが、何か良い事でもあったのかえ?」

「さあ、何があったのでしょうねえ」


 いつもは色気過多なお姉さん然としている花音が、とっても上機嫌だの。

 あれだけニマニマな笑顔を振りまかれては、却って調子が狂うわい。

 ユーディやカロリーナも見た事がないほどに機嫌が良いらしい。

 よほど、良い事があったのであろうな……


「姫様、南より何やら飛んでくるモノが……」

「なんじゃと?」


 門番が急を告げに駆け込んできたが、何事じゃ?


「アレでございます」


 門番が指さす方角を見ると… 何も見えぬぞ。

 ううむ、雲間に何やら小さな点が見え隠れしておるが、アレの事かえ?

 あれではない? だとすると、どれじゃ。ちょい左… むむ、あれじゃな?


「流石に烏天狗さんの視力は凄いですね」


 ユーディは双眼鏡を覗き込みながら、そっと呟いた。

 見ればカロリーナも望遠鏡を目に当てておる。

 そして、天守閣に警報が響き渡った。


『イズワカ城に接近中の飛行物体から、SIFの応答がありません。

 空襲警報を発令! これは訓練ではありません。繰り返します……』


 SIF(Selective Identification Feature)には、いくつかの機能が備えられている。それは敵味方の識別と、味方なら『誰』なのかを特定するために。

 第2次世界大戦の初期に開発され、長い期間をかけて改良さたそれは、人類が運用する──メイドロイドが使うサイクロンのような小型機から、ナギの魔導気球に至るまでの──全ての『乗り物』に搭載されているものだ。


「まさか、また誰かが乗っ取られた?」


 メイドロイド達によるイズワカ城への空挺作戦があったのは、まだまだ記憶に新しいところだ。あの時はメイドロイドの生体部品に憑依した精神生命体タイプの魔族の仕業だった事が分かっている。

 そしてそれは、ナギによって討伐されたのだが……


「急いで対空戦闘の用意を整えるのじゃ!」


 亀姫が指図をする前に、すでに埴輪たちは行動を始めていた。

 石垣に偽装されたブンカーからは、対空機関砲を積んだハーフトラックが次々に吐き出されてゆく。要所要所に配置された銅鐸(ベゼルガ)たちは陽炎がゆらめいくエクサイマーの銃口を空に向けた。


『光学センサーで目標を確認、自動追尾を開始』


 鈍い音を立てて、窓には装甲シャッターが下りてきた。

 下の方から鈍い音が聞こえるという事は、魔導機関が全力運転に入ったという事であろう。対空射撃が始まったら、イズワカ城はバリヤーに包まれるはず。


『射撃開始まで30秒。多連装竹槍ランチャー・アントンは、威嚇射撃の準備』


 アントンとは、対空陣地の符丁である。イズワカ盆地の南側… 以前、メイド部隊が拠点にした場所だ。今はレジャー施設として使われているが、本来は防空陣地として建設されていたもの……

 10年以上の時を経て、ようやく本来の目的で使われる事になったのだ。


「ちょっと待って。あれ、何か見憶えがあるわよ」


 対空モニターに映し出された映像を見ていたカロリーナが、素っ頓狂な声をあげた。そうした彼女の反応も分からなくもない。

 モニターの映像は1機の、とても見覚えのある航空機だったからだ。


「機体の色は桜色、横に大きく張り出した主翼…… マークが見えるけど」

「蒼い五芒星ですね…… まさかエスター様が?」


 巫女姫姉妹は飛行物体の正体に気が付いたが、射撃中止命令を出すには、少しだけ遅かった。打ち上げられた竹槍は、飛行物体の手前まで上昇すると、そこで爆発したのだ。


『飛行物体は進路を変更。ケーザルは射程に入り次第、対空射撃……』


 飛来する桜色の機体は、威嚇のために打ち上げられた竹槍の爆発を最小限の機動でかわすと、スピードを落とす事もなくイズワカ城へ近づいてきた。


「対空射撃は待って! あれはエスター様かも」

『IFFに応答がないので、敵性物体の可能性がある事を否定できません』


 次の瞬間に、南の空に炎の渦が……

対空ミサイルは、目標に命中させるだけではなく、ミサイルを爆発させて破片を撒き散らすものも。ウクライナ国際航空752便やマレーシア航空17便の撃墜事件で使われたのは後者だったそうで。

つまり、破片を撒き散らすタイプのミサイルだったそうです。

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