そして全ては日常に
オーデル達はとんでもない体験をしたものね。
古代の火星人が太陽系外の惑星に作った植民地の痕跡を見つけるなんて。
さらに、彼らの一部は地球に移住していた記録が残されていたとは。
「まさに驚天動地とはこの事かも知れないわね」
この星系はなんという強運の持ち主なのでしょう。
こんな短い期間に宇宙進出が出来るレベル文明がふたつも生み出されたとは。
「とりあえず家に戻りましょうか」
部屋の一角にある本棚の前に立つと、一冊の本に手をかざした。
本棚の奥からリレーが動くかちりという音がすると、音もなく壁に吸い込まれた。
残された空間には鈍い光を放つ装甲ドアが現れる。
「……やっぱり面倒ねぇ、この方法」
装甲ドアの前に立つと、認証パネルに手を当てた。
ここから先にもいくつかのセキュリティがあり、全てのチェックをパスしなくては外に出る事は出来ないのだ。
それは王城の宝物庫の警備さえ児戯に思えるほど厳重なもの。
これほどまでに厳重なセキュリティが施されているのには、相応の理由がある。
エスターがいるこの区画に保管されているモノは、今の人類に知られたら大変な事になる設備や知識が詰まっているのだ。
そしてこの部屋こそが月面基地にあるセントラル・コアにアクセス出来る唯一のインターフェイスでもあるからだ。
やがて屋敷の地下室にたどり着くと、扉の外にはセバスが控えていた。
「お帰りなさいませ、エスター様。はなはだ簡単なものではございますが、お食事の用意を致しましたが……」
「ありがとう、セバス。頂くわ」
「はい、それではこちらに……」
彼はこの屋敷の執事長を務めるヒト族の男性だ。
今回のように終わりの時間が読めない『仕事』の後でもかならず相応の対応をする事が出来る事からも、彼の優秀さを示すのには十分だろう。
「私の留守中に何か変わった事はあって?」
「先日の時空震の関係で、嶺衣奈様がドゥーラよりおいでになりました」
現在この近辺を治めている土地神はドゥーラの猫神だ。
何かあれば、きっと動いているはず。
そのうちに嶺衣奈も巻き込まれると思っていたのだけど。
「やはり、ね。彼女は震源を特定できたのかしら」
「1レグア四方ほどの領域に絞り込みました。もちろん範囲の中には正解も含まれております」
半年前の時空震は、とても規模の大きなものだった。
計器が示した数値は、異世界からの来訪者が来た事を意味していた。
そして、異世界からの来訪者が平和的な目的を持っているとは限らない。
事実、辛丑の役で出現したドラゴンによって、江戸が壊滅の危機にさらされたのだ。
同じことが起きれば、この地域に暮らす人類は間違いなく全滅するだろう。
もしも大神殿から神託の内容を知らされていなかったら……
「ふふ、なかなか頑張ったわね」
「左様でございますな」
神託を下したのは、この宇宙の創世に関る神だった。
エスターは、それが創造神か、その側近クラスではないかと思っている。
「誰だか分かりませんが…… ずいぶんと神様に気に入られたようですね」
エスターにとって、転移してきたのが何者であっても問題ではなかった。
人類に対して害意が無いのであれば、接触する理由などどこにもない。
少なくとも、放置するが吉… そのくらいの感覚なのだ。
「それから、大神殿より使者が」
「大神殿から?」
はっきり言って、何か嫌な予感がする。
悪意など欠片もなく、純粋に神官として務めを果たしているのだが……
あの神官長はクセが強いのだ。
「当日の衣装が完成したので、お送り致しますとの事でございました」
ああ、そうか。
地球では春祭りの季節だったわね。
衣装は明日にでも見せてもらうことにしましょう。
今回の宇宙編はここでお終いです。
太陽系の歴史の一部を垣間見たわけですが……
XLで作った年表がががが……




