いざ、魔の森へ
重駆逐戦車に原子力電池を積み込むのには苦労しましたが…
車内まではクレーンで運び込む事が出来ますけれど、その先が面倒なのです。
たとえそれが、すべてコネクターで繋ぐだけの作業だとしても、です。
原子力電池を固定する部品だって、ドリル片手に頑張るしかなかったし。
嶺衣奈ちゃんにはこういう力仕事は無理だし、騎士さん達に車内を見せたくないのです。
今でさえ騎士団に進呈しろなんて言っている人がいますから、用心するのに越した事はありません。まさかとは思いますが、乗り逃げする人がいるかも。
「立て籠もられたりしたら、厄介な事案に発展しかねないし」
「まさかぁ? いくら何でも無理がない?」
いえいえ、クアルガ駐屯地に来た人たちの中には、戦車の扱いにはちょっと詳しいと言い張る『元』航空兵とか。軍人でもないのに戦車を持っているのはけしからんと言う、お貴族様とかがね。
「……あとで、誰が来たのか教えてもらっても?」
ちょ、嶺衣奈ちゃん… その顔は怖い。駄目ですよ、早くそこにかなぐり捨てた猫を羽織ってください。カズマさんに見られたらヤバいでしょ。
はりあっぷ、はりあっぷ!
「ドゥーラ城の権力闘争にはキョーミないし。寄こせというならあげますよ?
モンキーモデルですけれどね」
同盟相手でも、自分が使っているものと同じものなんか渡せませんよ。渡すなら劣化コピー品に決まっているじゃないですか。
渡した戦車は誰に向けられるのか、分かったものではありませんからね。
「そして、戦車を渡した時点で約束は果たしましたから、動かせなくても責任はないのよねぇ」
まあ、やれるものならやってみろ、ってね。
それに、ドゥーラまで運び込む気もありませんよ。
そんなに欲しいなら自分で取りに来い、あとは知らん。
つまりはそういう事ですよ。
「よいしょ… っと。積み込む砲弾もこれが最後だし、食糧や水もオッケー」
砲弾の格納方法を変えたり、動力システムを小型化したことで容積には余裕があるのです。乗組員が2人で済むというのも、大きいですね。
私だけでも操縦できるのですが、ヘッツアーとは勝手が違い過ぎます。
だから、アーロイスのサポートは必須という事で。
「お昼ご飯を食べたら、出発しますよ」
「カズマさんに言わなくてもいの?」
騎士団が受けた命令は、この方面の調査です。この先にあるはずの共用飛行場を探し出すのは秘密作戦なのかもね。
だって、彼らはこれ以上、進む気はないようですから。
「まあ、砦でも何でも作っていれば良いのです。私たちは先に進むだけですよ」
……と、いうわけで。
例の森の入り口までやってきました。
今のところ、魔力の素の吸収効率は10パーセントダウン、という所です。
それにしてもね……
「不思議な森ですね。熱帯にしか生えない木と、熱帯には生えない木が同居しているなんて、初めて見ましたよ」
「お陰で、リフォームも早く終わりましたけどね」
作ったのはただの箱ですからね。
神社を建てるのに比べれば、遥かに楽な仕事でしたよ。
それはまあ、いつもの事だし。それより問題は、この事実です。
「それにしても、ねぇ…… 馬車がすれ違う事が出来そうですね」
道路は舗装されているようには見えません…… でも、間違いなく『加工』されているはず。道路の両脇に見え隠れする石柱の大きさからすれば、この道路を使っている種族は、我々と変わらないサイズのはず。
そして馬車が余裕ですれ違う事の出来る道幅だとすれば、これはもう基幹道路という事になるでしょう。
「悩んでいても仕方がりません。行きますよ」
こうして、私たちを乗せた重駆逐戦車は、未知の森にわだちを記したのです。
ここから先は、しばらくは自動操縦で進めそうですね。車体に取り付けられた4つの光学センサーが進行方向の安全を確保してくれます。
このシステムで交通安全についてはバッチリです。
それ以前にスピードを出す気もありません。
優秀な重駆逐戦車でも、慣性の法則を無視する事は出来ません。
何があっても、瞬間的に、そして安全に静止できるのは、せいぜい時速8キロから10キロなのです。
自転車にさえ追い越されるスピードでは、時間がかかるのは仕方がありません。
そのために、食糧や水はたっぷりと積み込んでおいたのです。
あとは、魔法の素がどれだけあるでしょうか…
インフルエンザにかかりました。
検査キットの表示では、A型です。
ううう、熱で頭がぼうっとして、身体中が痛いです……




