原生林を前にして
グダグダな一夜が過ぎて、夜が明けて。
飛行場を目指しての探検旅行も、今日で3日目になります。
こうして見ると、自然は偉大と言いますか……
「ついに道が無くなりましたねぇ」
そうなのです。
エルターから借りた地図を頼りに、厚さ1メートル半もあるコンクリートで舗装された道路… の痕跡を辿りながら進んできた私たちですが。
探検も、ここでストップです。
ナギの探知魔法でも、道路はスパッと切り取られて土の層になっているとか。
同じ形をした別の模様のピースがはめ込まれたジグゾーパズルのような感じと言えば良いでしょうか。
ここが入れ替わった時空間の境い目… なのでしょう。
「ここまで順調だったのがウソのようですね」
「まったくよ。まるでモダテの森みたいなことになっているわね」
モダテの里の北側に広がる大森林。超強い魔物が多い事から帰らずの森なんて呼ばれていますけど、目の前に広がっているのは、そんな感じの原生林です。
それでも、道らしきものはあるようですね……
「道幅は重駆逐戦車でも通れるから、進もうと思えば進めるけど」
言葉を飾るなら、森の中の馬車道ですね。
雑木をなぎ倒しながら進まなくても良くなった分だけ、探検は楽になるかもしれませんが、リスクも増えたと判断すべきでしょう。
もしもここが帰らずの森のような場所だったら?
少なくとも王宮騎士団の皆さんには厳しい戦いになるかも。
もしも魔物と戦う事になったとしたら… いくら王宮騎士とはいえ2個小隊という人数は戦力的に微妙です。
後続の野戦救急車と荷駄隊は戦力外としてカウントするしかないし。
「とにかく、一度戻りましょう。色々と気になる事もあるから」
「そうですね…… カズマさんも、それで良いですね?」
という事があったので、昨日の道の駅まで戻ってきたのです。
たしかに急ぎ過ぎた感がありますね。道路を掘り起こして整備すれば、シオカから馬車で2日という距離にある道の駅は理想的な拠点になり得ます。
原生林があるなら、それはそれで頑張らなくちゃダメかも。
それにしても、ナギが気になっている事と言うのは何でしょう。
重駆逐戦車と野戦救急車の間を行ったり来たりして、何かを調べているようですけれど。
「ん、魔晶石の調子がおかしくてね」
「どっちも大きな魔晶石を積んでいますよね」
王国にある魔晶石は、大きなものでも私の握りこぶしくらい。
缶コーヒーくらいのものですか。でも重駆逐戦車に積まれていたのは、灯油のポリタンクくらい。それが4つも!
野戦救急車にも、同じサイズのものを2個積んでいます。
どこで手に入れたのか教えてもらいたいものですが、国家機密だそうで。
たぶん魔晶石の鉱脈でも見つけましたかね。
「それでも、この2両は特別。水神様も花音も、心配し過ぎなのよ」
ナギはソンブレロ星人が現実にいたら、こんな感じ… というトンデモ人間なんだけど、それでも怪我をするリスクはゼロじゃないと言うのが彼らの言い分だそうで。
「過保護過ぎるのも問題なのよね」
そう言って苦笑いをするナギも、満更ではないようで。
はいはい、ゴチソーサマ! でもね、ノロケも大概にしてください。
ひとり身の私には拷問ですよ、それ。
これ以上続いたら、暴れても良いレベルですよね?
「暴れても良いけど、王宮騎士の皆さんはどう見るかしら?」
ぐぬぬ… 知っててやりやがりましたか。
たしかに、ここで暴れたら私が今までに築き上げたイメージが……
「頑張れ、おっきなネコ!」
「誰に言ってるんですか」
「あんたの背中にしがみついている、おっきなネコさんにだよ」
くっそぉ……
「で、何が気になっているんです?」
ここは強引にでもノロケの連鎖を断ち切っちゃる。
とりあえず黒い手帳に書いておいて、家に帰ったら仕返しするんだ。
ふむ、こうしてみるとそれなりに溜まっていますか……
「で、返り討ちにあうまでがデフォ… と」
だーかーら、そんな事をニマニマ笑いながら言わんでもよろし。
今度こそ、勝って見せるわよ。
時空間の入れ替わりは全地球レベルの災害なのです。
この災害で、いくつもの大都市や工業地帯が喪われてしまいました。
それは人類文明も基盤を喪ったという事で……




