重駆逐戦車で行こう
シオカを出発した私は、嶺衣奈ちゃんと一緒にお出かけ中。
今年も終わろうとしている時期に、何をしているんだとお思いでしょうけれど。
私がシオカに野戦救急車を持ってきたのには、それなりの理由があるのです。
きゅらきゅらきゅら……
荒れ果てた街道を軽快に動き回る重駆逐戦車ですが、動力系の基本仕様は装甲兵員輸送車と同じものです。違いがあるとすれば、他のものよりもより大きな魔晶石と原子力電池を積んでいるという事でしょうか。
このレベルの核反応なら、立ち消えせずに使える事は実証済みなのです。
「あ、そこはまっすぐ進んでください。右の分岐は古い街道で、誰もメンテしてませんから。少し遠回りですが、こっちの方が道路はしっかりしていると思いますよ」
「…だそうですよ」
「ぴい」
操縦席の埴輪さん達に声をかけると、再び窓の外の風景に目をやった。
今まで通ってきた街道はドゥーラとシオカを結ぶ重要なラインなのは言うまでもありません。それどころか、ナルハマまで陸路で行けるようになるかもしれない重要なものです。
もっとも、今回はそこまで行きませんよ。
街道からそれて、このまま海岸を目指すのですが……
シオカを出てしばらく走ったこの辺りは、さすがに自然に飲み込まれてしまいますね。道路そのものが消えて無くなったわけではないのですけれど。
ちょっと見ただけでは、ここに道路があったなんて分かりません。
「こうなるとエスターから借りた地図が役に立つわね」
「読み方を習っておいて正解でした」
自然に飲み込まれた土地ですが、ここには文明の痕跡が残されています。
その最たるものは道路です。
都市周辺の道路の舗装は耐久性を優先した作りになっているようですから、街道の両側から流れ込んだ土砂や、雑木などを取り除けば十分に使えるはず。
なんでも、この辺りまでは路盤の厚さが違うのです。
そのお陰で、こんな大物を走らせることが出来るのですけどね。
「実験的なものもあるが、道路の構造は飛行場並みだそうだからな」
この探検の、もうひとりの同行者はカズマさん。
ドゥーラ王国の騎士団長ですが、クアルガ駐屯地に詰めていた筈では。
「それなら他の者に任せてきた。オーガとの戦い方も分かってきたからなぁ」
さいですか。それなら良いのですけど、国王陛下はご存じで?
あなたは王国の重要人物ですから、どこにいるのか分からなくなった、なんて事になったら大変ですよ?
…だから、後ろの騎士さんですか。
「おめーの護衛のために2個小隊、持ってきたんだが……」
「……どっちが護衛されているんだか」
駄目ですよ、嶺衣奈ちゃん。心に正直な事は美徳ですが、思った事を簡単に口に出すのはオトナの対応とは言えませんよ。こういう時は嘘でも良いから褒めたたえておくのです。昔から嘘も方便と言うでしょう?
だからね……
「クアルガにいた部隊とは装備が違うようですが?」
「あれは王宮騎士団だ。いわば国王を守るための部隊ってェ奴だ」
騎士団は3つの部隊に分けられているそうで、王宮騎士団は文字通りの意味で国王陛下を守るためのもの。そして、残り2つの部隊がモズマとドゥーラ郊外に駐屯しているとか。
後者から人を割いてくれたと思ったら、違っていたのですね。
「このあたりで休憩しましょうか」
街道を占領している雑木などは、重駆逐戦車が進むための障害にはなりません。
その巨体で、何でも踏み潰してしまえば良いわけですから。
さすがに軽戦車では、こうもいきませんね。
かと言って、あの大型ブルドーザーは表には出せないし。
いささか乱暴な方法ですけれど、重駆逐戦車で強引に進むのがベターな判断というわけです。それに、倒壊したビルがあっても大砲で粉砕すればいいし。
「そうだな。たしかこの先に道の駅があった筈だから、そこにすっか」
「道の駅… ですか」
それなら、そこそこの広場になっているでしょうから、何かあってもすぐに対処できそうです。将来的には駐屯地を作る事も出来そうです。
それに、水場も近くにありそうですからね。
「…よっし、ここだ。あんまり荒れちゃいねぇ」
「今日はここで一泊しましょうかね」
建物は形が残っていますが、それは後で調査するとして。
騎士団の皆さんにも、充分に休んでもらわなくては。
で、私がどこに向かっているかと言うと……
この先にある筈の、官民共用の飛行場なのです。
国内には97か所の飛行場があり、そのうち8か所が官民共用だそうです。




