今は亡き友へ
ここティーガ星系にその足跡を記したのは、地球人の片親と言うべき種族だった。
それは地球より一足先に火星で進化を遂げた人類である。
火星人は地球にも移住していた。
居住環境のよく似た高緯度地方に移住し、徐々に南下したのだろう。
「こいつは… ちょっとした驚きだな」
「まったくです。歴史学者がこれを見たら卒倒しますね」
フリーデはくすくすと笑いながら言った。
超古代文明は、いくつかのグループに分ける事が出来る。
文字や建築様式、都市の構造などの傾向が明らかに違うからだ。
その中でも、ローレンシア大陸で生まれた文明圏。最大の遺跡は北極圏に近い北東部の半島にある。火星人が降り立ったのは、このあたりでしょうね。
「こんな荒唐無稽な話なんか信じないだろ。でっち上げだって叫ぶだけだ」
「そうかも知れないな…… っと」
私は話の輪に入りながら、地上走行車の部品を組み立てながらている。
車体の後ろにキャタピラを装備したモーターサイクルなのだが、シンプルな構造なので、ランダーに搭載されているものより使い勝手が良い。
さらにこれは汎用車両なので、色々な場面で使われていたもの。
「俺様も組み立てを手伝おうか?」
「いや、大体終わった。あとは原子力電池だけだよ」
シートにまたがり、ハンドルに付いているスイッチを入れるとセルフチェック機構がスタートする。しばらくするとメーターに緑色のランプがついた。
「お、うまくいったな」
両手でハンドルを握る。このあたりはモーターサイクルと同じ感覚でいける。
アクセルとブレーキ、シフトレバーあたりは自動車と同じなのだが。
サイドブレーキを解除してから軽くアクセルペダルを踏み込むと、キャタピラがきゅらきゅらと軽快な音をたて、車体が動き出した。
「いぃやっほぉぅ!」
ちょっとアクセルを踏んだだけで80キロは出るじゃないか。
ハンドルを切ると左右のキャタピラのスピードを変わるように……
よしよし、シンクロは上手くいっているな。
「……なあ、フリーデ」
「なぁに?」
「俺様が憶えている限り、あんなオーデルは見たことがないぞ」
少年の顔をして地上走行車で走り回るオーデルを、フリーデはにこにこと笑いながら見守っている。
「そう? 私はよく見かけたけど?」
「それはヤツが子供の頃の話だろ」
「そうだったかしら? まあ、いいじゃない」
ささやかなドライブを堪能したオーデルは、荷物を載せた台車を繋いだ。
「車体は問題ないな。 ……行こうか」
「ああ」
「そうね、行きましょう」
台車に載っているのは簡易クレーンと石材だ。
向かう先にあるのは古代の石碑である。
「せめて、彼女の居場所くらいは作ってあげたいわね」
フリーデの一言は誰もが思っていた事だった。
この星に着陸してから1か月余り。ようやく、この時を迎える事が出来たのだ。
石碑の隣に石材を組み立てていく。大きさは1メートル四方くらいだろうか。
継ぎ目は剃刀の刃さえ入らないほど精密に加工されている。
「これは俺様がドワーフのプライドをかけて彫り上げた傑作なんだぜ」
最後の石板には、百日草のレリーフが彫り込まれている。
白いプレートのその部分だけは、ひそかに生命が息づいているかのようだ。
そこに刻まれているのは、オーデル達と苦楽を共にしたひとりの女性の名前。
これは途半ばにしてこの世を去った仲間の墓標なのだ。
オーデルは石板に話しかけた。
「ちょっと出かけてくる。留守は頼んだからな」
「俺様もだ。オーデルは一人にしておくと危なっかしいからな」
「……またね。リーゼロッテ」
三人はしばらく石碑の前に佇んでいたが、やがてモーターサイクルに乗り込んだ。
彼らが為さねばならぬ事を為すために。
死者を悼むのは、それらすべてが終わってからになるだろう。
真新しい墓標は、柔らかな日差しを受けて……
そこに在った。
後ろ半分がキャタピラになったモーターサイクルは、前世紀の半ばに生産終了しています。
現在の日本では小型特殊車両に分類され、運転には大型特殊車両の免許が必要だそうです。
海外にはそれなりに車体が残っているそうですから……
……高級乗用車数台分の予算があれば、手に入るかも。(笑)




