ある日の森の中
いきなりナギがクアルガに来た。
これだけだと何の事だかわからねぇだろうが、混乱したのは俺だけじゃねぇ。
いきなり駐屯地のど真ん中に現れたんだ。
それも、ソンブレロ星雲人のコスプレをしてたんだ……
「おめえ、ナギ… だな?」
「という事は、あなたが騎士団長さん? コンゴトモヨロシク……」
ナギの事は前に友里恵が詳しく話してくれたから、すぐに分かったんだが……
そもそも、平気であんなコスプレしている奴ァ、他にはいねぇ。
だが、こいつは……
「お、おう……」
ナギがまとっている気というか、オーラが半端ねぇ。
いったい何なんだよ、ありゃあ覇気ではねぇな。かと言って妖気でもねぇ。
国王陛下も会った事があると言ってたが… なかなかの実力者だそうだが。
こういうモノは実際にこの目で見てみねぇとな。
「これから森に行くんだが、一緒に来るか?」
クアルガでも作物を作り始めているが、いわゆる森の動物というヤツがな。
昔のモズマもそうだったように、この辺りでも色々と出るんだよ。
たとえそれが何であれ、野生動物と人間が喧嘩をすれば、人間が負ける。
たとえそれが子供であったとしても、だ。
大体がクマやイノブタだが…… 厄介なのは魔物だな。
異世界産の森の動物というヤツだが、見敵必戦、徹底駆除。
戦前ならともかく、今はたとえ子供でも容赦なんか、しちゃいけねぇ。
「戦前に『そんな事』をしたら、非難轟々ですね」
仮に人や家畜がなどが襲われて、怪我では済まない被害が出たとしても、それを駆除した人の事を悪魔呼ばわりした奴もいたな。
でも、自分の目の前に、そういう動物が現れたらどうするかな。
素直に食い殺されるのが、本人的にも『正しい行ない』の筈なんだが。
「まァ、似たような事はあったけどな」
かわいい森の動物さんを殺すなんてかわいそう… とか言っていたか。
被害者の生死なんか関係ない。自分に災難が及ばないなら言いたい放題。
俺たちに言わせれば野生動物よりも、そういうクレーマーの方がな……
地域というよりも、人類文明にとっては、奴らの方が害獣だと思うぜ。
「そんな奴らがいたら、俺たちに同行してもらうけれどなぁ?」
ナギ、オメーは、その辺りはどうなんだ。
自家製のアンドゥイユは旨い? 腸詰めにすっと、駄目な奴は駄目だかんな。
やっぱし内臓肉は味噌煮が一番だっぺよ。
土手煮にでもすりゃメシは進むし、もちろん酒にも合う……
「っと、この辺りか… おい、始めんぞ」
「へーい」
森の中のちょっと開けた場所まで来たが。
この辺りでは薬草が何種類か採れるそうだ。医者様が薬草が足りねぇって言ってたから集めてみっか。
で、オメーはなんて顔してるんだよ。
「騎士団って戦うのが仕事だと思っていましたが……」
「まあ、職業軍人みてぇだが、他にも色々やってんぞ」
さすがに騎士や兵の全てを職業軍人になんか出来ねぇ。治安維持なんかも仕事のうちだがな、それでもな。
ローテーションの外れた平時の下級騎士がする事っちゃあ、屯田兵だな。
どこもかしこも手が足りてねぇんだ、しゃーあんめ……
GAAAA!
やべぇ、ゴブリンか!
「ふんっ!」
ざしゅ!
おいナギ、おめぇ何を…… って、俺の刀だとぅ?
はっと思って、腰に目よやると…… 腰に下げていた俺の刀が抜き取られているじゃねぇか。
ゴブリン出るまでは、ちょっと離れた所で薬草採ってたよな。
「はぁ、良い運動になったのです」
一瞬で4体ものゴブリンを斬り伏せたナギは、刀を一振りすると……
ちゃきっ。
すっ… と、腰に重さが戻ってきた。
刀をさやに戻してくれたか。ご丁寧なこって。
「で、何をしたんだ?」
……そうか、これがクイックムーブか。
この俺が残像すら追えなかったとは、な……
騎士団の仕事は軍隊としてのそれと、警察の業務を足し合わせたようなものです。
そして、大半が屯田兵……
兵じゃなくて騎士だから、この場合は屯田騎士になりますか。




