碑文の解読を始めましょう
幸いな事にこの星の1日は25時間だ。
時間の調整は睡眠時間を長くとれば、地球にいるのと大差はない。
「碑文の文字は、地球のもののようね。もっと旧い時代の物のようですけどね」
「どのくらい「前」なのかな」
「それは俺様が答えてやる」
「この石碑が造られたのは、今からだいたい5万年前になるな。ご丁寧に石碑の台座に放射性物質のカプセルが埋め込まれていたから間違いないぞ」
カプセルには11.4キログラムの純粋なウラニウムが封入されていたそうだ。
ウラニウムの半減期は2億4000万年だ。
崩壊してラジウムに変化したものとの割合から、経過時間が分かる。
「原始的なのか近代的なのかわかりませんね」
「記録と言っても… 『熱と光を生み出す量の半分』だからなぁ」
つまり臨界質量の半分、というところか。
石碑から放射線の反応は無かったから、高度な遮蔽技術があるのだろう。
それにしても5万年か……
「そうそう、碑文が一部だけど解読出来たわよ」
フリーデは解読できた部分を表示した。それ以外はくさび型文字のままだ。
『この星の名はティーガ系第1惑星・アルサーニ。
我々の祖先が生まれ育った故郷の星は別のところにある。ここから12.5光年離れたソル系第4惑星・メドリーフこそがわが種族の故郷の星だ。
だが、我らはメドリーフを離れた。惑星としての寿命が尽きんがために』
「メドリーフ? 第4惑星だって?」
「俺様の想像に間違い無ければ、火星の事じゃないのか」
「地球の文字が使われてますからね…… 多分そうでしょう」
火星にも、遺跡は見つかっているが、あまりにも時代が古すぎて、ほとんどが風化のため原型を残していない。
火星にも十分な大気や水があった時代があったのだろうな。
「私からだが。我々の現在位置が判明したが…… 見るか?」
「……」「……」
表示されたデータを見たハンスとフリーデは、言葉を失った。
「やっぱりそうなるか」
この赤色矮星も地球から12.5光年の距離にある。月面天文台の観測でもハビタブルゾーンにふたつの地球型惑星がある事を確認している。
これが発表された時には、いくつもの地球型惑星が発見されていたので、大した話題にはならなかったものだ。赤色矮星というのもマイナスだったな。
「それで、残りの翻訳は?」
「ここから先はちょっと複雑な書き方をしているから。時間がかかりそうね」
「それでは、ささやかながら生鮮食料品の備蓄を増やそうか」
食料合成装置には十分な資材はあるし、味も特に不満はないのだが。
汁気たっぷりの食材というのは、それだけで千金の値があるというものだ。
「それならまず、あのブナの実を収穫しませんか?」
「俺様は賛成できねぇな。毒があるんだろ」
「簡単に無毒化できるわよ。誕生日のクッキー、美味しかったでしょ?」
「そンなら、いいか」
たしかにブナの実には、微量ながら毒物が含まれている。だから、生のままで沢山食べると、腹痛や頭痛に悩まされる事もある。場合によっては生命にかかわる。
だが、ジョーモン・ピリオドのヒノモトにさえ、そのような処理を専門にしていた集落の遺跡があったはずだ。
「ヴェスターヴェラントの森もブナ林でしたからね」
「……懐かしいな。出会いの地、か」
ああ、あれから20年も経ったんだな。
私は武者修行の旅に、ハンスは素材採取のために森へと足を踏み入れたんだ。
エルフの集落近くに迷い込んで、そこでフリーデと出逢った。
「あの時の少年が、今ではこんなに老けちゃって……」
「老けたって言わんでくれ。私はまだ31歳だ!」
フリーデも見た目は今の私と変わらないように見えるが、実際には……
「オーデル君? …怒るわよ?」
……80歳を超えているんだな、これが。
「おぉでるうぅっ!」
どか、ばき、ごしゃ……
オーデル少佐も莫迦な事をしたものです。( ̄人 ̄)ナムナム




