ダンジョンの合体はあっさりと
番外編(用語解説的なもの)を18時に投稿します。
本編とは関係がありませんが、ネタバレがあるかも。
地下から近づいてくる物体を探知してから、しばらく経ったけど。
何か妙なのよね。弾かれたように動いたら沈黙。また動き出したと思えば、今度は這うようなスピードだし。
カクカクとした動きは、まるで壊れかかったおもちゃみたいな感じ。
「あら?」
ダンジョンまで300メートルという所で、地中レーダーの反応が……
『えりー、えりー、急に消えたヨ』
昴が慌てたように声を上げたけど、その物体の反応がいきなり消えたのよ。
なんというか、まるで空間転移を…… 時空震は検出してないから違うわね。
だからと言って放っておくわけにもいかないし、とにかく調べるか……
「多脚戦車を出してくれる? アレが何なのか調べましょ」
あの物体の反応があったのは、おおむね地下50メートル。距離的には砦の外に出なくてはならないけど…… 銅鐸さんを護衛に付ければ何とかなるかな。
「で、何を探しているの?」
ナギがアルーガに来たのは、それからしばらくしてから。
日頃から来ちゃダメって言っておいたけど…… 私たちと違って、あなたは殺されたらそれでお終いなの。予備は無いんですからね?
「ルーシルートと一緒だから、良いかと思って」
「あのランダーは武装しているし、超加速機動も出来る」
ナギと一緒に来ていたルーシルートは薄い笑顔を浮かべると、ぼそりと口を開いた。相変わらず無口な子だけど言いたい事はわかる。
あの乗り物──ランダー? があれば大丈夫という事なのね?
「それに、マジックバリアも展開できるから……」
それなら、まあいいでしょ。ようこそアルーガのダンジョンへ。
歓迎するわ。
「で、多脚戦車に銅鐸さん。そして、そのセンサーユニット」
「地下から接近中の何かがいるの。急に反応が途絶えたんだけど……」
「どのあたり?」
「ダンジョンから東に200メートル、おおむね地下50メートル」
花音はがっちょがっちょと音を立てながら、多脚戦車が荷車に乗せた計測機器を引っ張っていくのを見ながら、ゆっくりと答えた。
彼女にしてみれば、それまで派手に太鼓を鳴らしながら行進してきた楽団が、ふいに姿を消したようなもの。警戒するなと言う方が無理と言うものだ。
それを見たナギとルーシルートは思わず顔を見合せた。
「えっ?」「それは……」
「貴女たち、何か知ってるの!?」
ナギ達にしてみれば、知っているも何もない。花音の言う『何か』は自壊したシールドマシンなのだから。だけど花音にも話し… あれ、どうだったかな…
「それって私たちがよく知っているものだと思うの……」
「マイ・コマンダー? 今なら、怒らないで聞いてあげる」
「……もう怒ってるじゃない」
花音は、いきなりナギを抱きしめると。力を込めて抱きしめた。
身体能力は人間のそれをはるかに上回る生体インターフェイスが力を込めて抱きしめたのだから、悪くすれば抱き潰されてもおかしくは無いのだ……
「いいから言いなさい!」「あうあうあうあうあう……」
花音の立場からすれば、怒るなというのが無理な話かもしれない。
アルーガのダンジョンを中心として構築した防衛線の中枢に対して、妙なものを送り込もうとしたのだ。それも防御手段が限られている地下からだ。
もし物体が消滅せずにダンジョンに到達したら。それが敵のものだったなら。
アルーガを放棄して逃げ出すしかなかったかも知れないのだ。
『なぎ、なぎ、大変だヨ!』
花音の抱擁で意識が遠くなりかけたナギの耳に昴の声が飛び込んできた。
ナギは最後の気力で花音から逃げ出すと、昴に駆け寄った。
「どうしたの?」『ダンジョンが近づいてくル!! 戦争だヨ! 危なイ!』
ナギは不安におののく昴の身体を優しく抱きしめた。
「落ち着いて。よくダンジョンの気配を読みなさい」「……う… ン?」
「あれは、イズワカ城のダンジョンでしょう?」
ナギは全力でトンネルのダンジョン化を進めたが、予想以上のスピードでダンジョン化が終わったようだ。すぐにトンネルから膨大な魔力の供給が始まった。
「トンネルを掘って、ダンジョン化したの。どうやら上手く繋がったみたいね」
「そんな話もあったわね…… でも竣工は3年後じゃなかった?」
「ルーシルートに手伝ってもらって、シールドマシンを改造したのよ」
ナギは昴の手を引いて、ダンジョンの入り口に向かって歩き始めた。
アルーガを巡る戦いは第2ラウンドが始まったばかり。
そして、運命の天秤は人類の側に傾きつつある……
ふっふっふ。これでアルーガへの補給はばっちりだい。
ちなみに、この計画の事は花音にも話していたのですがねぇ……
しばらく要塞の中に閉じ込められて、何を食べても納豆味の刑に。
八つ当たりって、こういうモノなのね。




