雨が降るということ
この惑星に着陸して半月が過ぎた。
あれから何回か雨が降ったが、心配するような出来事は無かった。
ごく普通の雨の日というやつだが、逆にそれが厄介なのだ。
言うまでもない事だが、雪の結晶や雨は大気中の水蒸気が、大気中に漂っているちりやほこりに結露する事で生まれる。だが、必ずしもそれだけではない。
それは気流に乗って上空に巻き上げられた細菌などの微生物や小型の昆虫などだ。
地球でも20世紀の半ばには成層圏にそういった生物ののコロニーが発見されていたものだ。この星にもそんなコロニーがあって不思議ではない。
もしもそいつらがヤバい奴だったとしたら?
観測機器の一部を残して宇宙空間に退避する判断をした私は悪くない。
「今回の降水量は毎時20ミリだったわよ」
「バクテリアが数種類いたな。……ハンス?」」
私は分析機器を操作していたハンスに声をかけた。
「地上で見つけた奴らと変わらないな。遺伝子レベルで調べたが同じものだぜ」
案の定、雨水の中にはわずかに微生物が混ざっていた。遺伝子構造に至るまで地表にいるのと同じものだ、これなら問題ない。
それに今のところ、それほど大きな気圧の変動も起きていない。
台風でも来たら話は別だが、それはそれでシミュレート済みだ。
「そうすると、問題は水はけなのよね」
ここはかつて都市があったのは間違いないだろう。
昔から『立つ鳥跡を濁さず』というが、かつての住民たちは都市を去るにあたり全ての建築物を撤去して、地面を平らにしたのだ。
もっとも完全に水平ではなく、軽く勾配が付けて舗装している。
だが重力が低いこの星で排水をするには不十分なレベルだ。
これがここが都市だったという唯一の痕跡だ。
「地球の基準なら、この勾配でも問題は無いんだがなぁ」
「これでは中途半端に水分が残ってしまうぜ」
「湿気の対策も必要になるだろう。そうすると……」
高床式の建物にするか土台を作るしかないんだが。
決めた。土台を作ろう。今までのデータから高さは1メートルもあれば十分だ。
地球に比べると重力は半分以下だから、なるだけ重量を増やしたいが……
「単純に土台を作るというのも、何かもったいないわねぇ」
「どういう事だ?」
フリーデの考えはこうだ。
土台は建物ごとに作るよりも通路まで含めてすべて一体化したい。
台風や地震で倒壊するかもしれないから。
「トランプタワーのようにバラバラになるわけじゃなくて、そうね……
何と言ったらいいかしら」
「城塞みたいな感じ?」
「そう、それよ!」
なるほどな。フリーデも同じ事を考えていたんだな。
いちばん簡単なのは岩石か。
ハンスがヤポネス様式のヤシキを建てたいと言っていたが、城塞などの土台部分は岩石を組み合わせたもだったはず。テンシュー・タワーのマウントには倉庫区画や非常口もあったらしい。
「ヤポネス様式の城塞を参考にしよう」
「おう、やっと俺様の出番が来たか?」
「耐久性がある岩石をブロックにして積み上げるのが良さそうだと思うんだ」
「俺様もその考えに賛成だな。岩石ブロックは熔接してみるか」
地球上では1トンの岩石でも、この星に持ってくれば450キログラムだ。
だからと言って、運動エネルギーの法則は手加減してくれるはずもない。
岩石をただ積み上げるだけではなく、組み立てて強度を上げる必要があるわけか。
「それなら2重にして溶岩でも流し込んでみるか」
「わはは、そいつは良い考えだ」
岩石を液化させるだけのエネルギー源ならいくらでもある。
赤色矮星は放射する光や熱は弱いものと思いがちだが、この星に降りそそぐ光と熱は地球にいるのと大した違いはない。
だから太陽反射鏡を使えば十分なエネルギーが集める事ができるのだ。
「単純なパラボラじゃ芸が無いな。蓄熱金属に余分があるから組み込もうぜ。
そうすりゃ夜でも工事が出来るから、色々捗るぞ」
「いい考えだな、それ。さっそく設計してみるか」
最近はソーラークッカーで煮炊きをしているからな。
それを大きくするだけで何とかなるだろう。
この惑星でも雨は普通に降ります。
ただしすぐに地面に浸み込んでしまうので、川や湖を目にするチャンスは少ないかも。
川が流れた先には普通に海があります。




