アルーガで起きた出来事
アルーガのダンジョンは、厳密には5層にからなる地下トンネルの集合体に過ぎない。乱暴な言い方をすれば、ただの大規模地下空間。
地上との出入り口を隠すように、石造りのお蔵が建てられている。
というよりも、お蔵の中に出入口を作ったかな。
「イズワカから来た新型だが、使い勝手はどうだ?」
お蔵を囲むように配置された建物のひとつには武士団が常駐し、ここのところ頻繁に現れる偵察部隊との戦いを繰り返している。もちろん20人程度の武士ではすべてをカバーする事は出来ないから、埴輪や銅鐸たちも優先して配備する事になっている。
「あの紫色の奴だっぺ? ありゃあ斜面にも強いからなぁ」
常駐する武士の言う新型──ベルゼルガという名の銅鐸は戦場を選ばない。
重力制御システムで地上10センチくらいの所に浮かび、たとえそれが川の流れの上をも滑るように動き回る事が出来るのだから。
それに加えて装備された新型レーザーカノンは、決して魔族を逃がさない。
「じゃあ、ナギ様に頼んでいっぺー作ってもらったらよかっぺ」
「んだは今度の定期便に手紙を乗っけておくべえ」
地上ではそういう呑気な会話が繰り広げられているが、地下では迎撃作戦に大わらわだ。昴と紗紅夜は、決して多くはないエネルギーを使って迷宮を造り直し、トラップを作っている。
ダンジョンで賄いきれないものは、埴輪が地上から運び込み、出来上がった部分には新型の銅鐸を押し込めばいい。
慌ただしく、ダンジョンの改装を進めているのには訳がある。
東側から地中を進む何者かが、ここアルーガのダンジョンに接近中なのだ。
途中にある土砂は振動で消滅させながら、ゆっくりと、確実に……
『……ちょっと疲れタ』「私も」
あなたたち、ダンジョンの改装に精を出すのも良いけど……
『でも、とってモ楽しイ』
んむむむむ?
それはそれで良いけどねぇ…… おや、エレベーターで誰か来ますね。
武士の皆さんが何も言わない所を見ると敵では……
「邪魔するぞえ」
おや、亀姫様でしたか。
今日はどういう…… おおお? これは干し柿ですか。中身は栗きんとん?
なんという犯罪的なモノを作ったんです。こんなハイカロリーなお菓子を食べていたら、たぷの神からの祝福は待ったなしですよ?
「最近はこれでも体重が……」「やっぱり増えました?」
わくわくわくわく…… さあ白状したまへ。いくら食欲の秋とはいえ、甘いものの食べ過ぎはヤバいんですよ。さあ、何キロ増えました?
疾く、答えるのです。ハリアップ、ハリアップ!
「いんや、減っているのじゃ」
「ウソでしょぉおおお?」
うそだ。ぜってー、ウソに決まってます。
姫様が食べてるの、激甘の栗きんとんをたっぷりと詰め込んだ干し柿でしょ。
さっき味見をさせてもらったものに、人工甘味料は使われてなかったし。
こっちのスイートポテトだって3割がたハチミツで出来ていますよね?
「要はカロリーの収支が黒字でなくば、どれだけ食べても問題はあるまい?」
「それもそうですけれど、いったい何をすればそんなにカロリーを消費できるんですかねぇ」
ええと、大まかな計算ですけど、このお菓子、お重に入っている1段分だけで成人男性2日分のカロリーを賄えますよ。
それをお弁当代わりって……
「ちと山歩きをな。偵察部隊以外にもいくつか入り込んでいる者がおるのじゃ」
「別動隊… という訳ですか」
花音の脳裏を掠めたのは、地中から迫る正体不明の何か。
もしかして、あれが……本隊だとでも?
「いや、魔物使いじゃ。最近増えている補給部隊への襲撃は、奴らの仕業じゃ」
「え?」
「おそらく単独行動をしているのであろ。魔物にまぎれて入って来た1人の魔族を見つけるのは容易ではないのじゃ」
襲撃の回数や魔物の種類から考えると、複数のグループが入り込んでいますか。
そうなると、見つけるのは人海戦術に頼るしかない、と。
「そういう事じゃ。おかげで最近はとみにご飯が美味しゅうてのぅ……」
ぐぬぬ、そういう訳でしたか。で、見つけたんでっすか?
ふむ、アルーガよりもイズワカに寄ったあたりに6か所の拠点が。
それで、あの魔導擲弾筒ですか。
じゃあ、私たちは彼らを倒した後の事を考えておかなくては。
次に来るのは、偵察部隊ではないでしょうから。
時間軸は少し前後しましたが、この後に猟兵部隊の出番が来るわけで。
6か所あった敵の潜伏場所はリトルボーイを使うまでもなく、すべて壊滅。
対して人類側の損害は、病院送りになったザーラックだけ。
やったね。




