誰でもハラペコは嫌なもの
いやぁ、びっくりしましたね。
ソルナックさんも相当に無理をしているようです。エナジースティックを渡したら、いやもう、それはすごい勢いで食べていましたよ。
今のソルナックさんにコオロギクッキーを渡しても、面白くないので後回しにするとして。あとはカロリーナくらいですかね。
ヘルマは普通に食べていたし、亀姫様は別の意味で文句を言ってきました。
なんでも、味が薄すぎて逆の意味で不味かったそうで。
よくよく聞いてみると、ふたりとも普通に食べているそうです。
ちなみに妖怪さん達の間で人気があるのはセミの幼虫だとか。
私も悪戯を仕掛けるためだけに、こんなモノを作った訳ではありません。
イズワカに深刻な食糧危機が訪れようとしているのです。
それを何とかする方法はいくつか……
「……それで、コオロギを粉にしてしてクッキーの材料にしたのね?」
「それなら戦前にもあったそうじゃないですか」
驚いた事にアケビ狩りから帰ってきたカロリーナは、コオロギクッキーをぺろりと平らげたばかりか、おかわりまで要求してきたのです。
クラウゼルさんやユーディの様子から、彼女には材料はコオロギだと説明したうえで出したのですが……
「普通に美味しいわよ、これ」「……なんか拍子抜けですね」
「生で食べなきゃ何の問題も無いから、あとは味の問題でしょ」
「寄生虫とかばい菌が付いている事があるから、生はダメと?」
「そういう事。大昔は焼いて食べてたらしいわよ」
人類は有史以前から昆虫を食べてきた。それは現在でも同じこと。
現在の世界の国の数は196ヵ国だが、そのうち120ヵ国で昆虫は食べられているという。それは地球の総人口の25パーセント程度になる。
さらに、将来起こるはずの食糧危機に対して国連が出した回答のひとつとされているのも事実である。
「たしかに流通は始まっていたけど……」
「そうなの?」
「缶詰になったのとかは、自販機で普通に売ってたし、私も食べたし」
でも、食べるのに勇気が要ったのでは?
話を聞いていると、ゲテモノ食いとか命知らずとか言われたし。
実際のところ、昆虫を食べる習慣なんて無かったのでは?
「そんな事は無いわよ? 梅雨の時期にナギも食べたじゃない」
「へっ?」
「イナゴのつくだ煮。けっこう気に入って食べていたでしょ?」
そう言えば、あのころはエビのつくだ煮っぽいものが続きましたね。
食べていたのは私とカロリーナで、ほとんど食べきったんじゃなかった?
まさかあれが?
「あったりぃ! みんなエビとは小魚は丸ごと食べるくせに、虫になると駄目なのよね」
たしかに不思議ですね。小鮒の甘露煮だって丸ごとですものね。
ふぅん、田畑に農薬を撒くのも良し悪しですね。
それで虫も減ったわけですから、食べなくもなりますね。飢饉が起きている訳でもないので、他にも食べるものはいくらでもあるし。
そうこうしているうちに、いつの間にか昆虫食はすたれていった、と。
でもね……
「ケチラス号の話でしょ? 私も聞いてる」
「住むところは家老さんに考えがあるようだけど、問題は食糧なのよ」
人口が10倍以上に増えるとなると、食べるものもそれだけ必要になる訳で。
超七が狩りに精を出していたのもこのためですからね。でも、そろそろ動物は冬眠を始める時期だから、そうなるとちょっと拙いでしょう。
最悪の場合に備えた裏技はありますよ?
エスターのいる月面基地とレオノールの食料合成装置を使えば良いのです。
でも食糧を合成するための材料の備蓄は、ささやかなものです。あれだけの人数を何とかするには、それなりの量が必要になるのですが、そんなものがある訳がないのです。
だから、手っ取り早く食材を確保するなら……
「モダテの里では水産物加工場で色々やっていましたが……」
こっちの水産物加工場は、稼働どころか着工すらしていません。
昆虫の養殖なら簡単な建物で済むから、すぐに養殖場を作りましたけどね。
増やした昆虫は乾燥させて、粉末にすれば良いのです。
とにかく、姿形が分からないようにすればオッケーという事で。
「そう言う事になると思う。食糧問題は重要よ」
カロリーナの口から食べ物の話が出てくると、なんとも言えない説得力がありますね。今でこそ水着を着る事の出来る身体ですが、最初に会った時の姿を考えると…… ね?
でも、お陰で食糧問題はなんとかなりそうです。
前に言っていたイズワカの地図っぽいモノが何とか出来ました。
明日更新する『楽屋の裏から~』に投稿しますので、よろしくお願いします。




