思いがけないプレゼント
太陽系から離れる事12.5光年。
そこにはティーガと名付けられた赤色矮星がふたつの惑星を従えている。
その第2惑星・アルサーニは、人類の祖先ともいえる種族が足跡を残していた。
オーデル少佐が率いる4隻の宇宙船団は、偶然にも祖先が見つけ、その後に忘れ去られた惑星を再発見したのだ。
『赤色矮星の寿命は太陽よりも遥かに長いですよね』
「それこそ宇宙最後の日が来るまで存在し続けるかも知れないわねぇ」
セントラル・コアのサブシステムがエスターに疑問を投げかけた。
『なぜ彼らはアルサーニを捨てたのでしょウ』
赤色矮星は放射エネルギーが少ない恒星である。
そのため人類の生存可能な惑星は、恒星に近い所を巡っているはず。
恒星に変動があれば、惑星は大きな影響を受ける事になるだろう。
「多分、その頃は恒星活動が不安定な時期だったのかも」
私たちの太陽は11年サイクルで周期的に黒点の数やフレア等の太陽爆発現象が起きています。ティーガにも似たような事が起きないと言い切れません。
黒点が現れれば、太陽の放射エネルギーが減っているということ。
そうなれば、最悪の場合には惑星は凍りつきかねません。
強力なフレアが噴き出した場合は、活発になった恒星の放射エネルギーは数分で惑星を焼きつくすかも知れない。
『大きなリスク、という訳ですカ』
「そう考えても不思議はないですね」
あれだけの大森林が育つまでには最低でも数千年はかかるでしょう。あの石碑が無事な事を考えると、ティーガの活動サイクルはかなり長いのかも知れません。
『これは推定ナのですガ』
「どうしたの?」
『食堂の料理は、我々に供された可能性についテ』
「へっ?」
調査用ドローンが食堂に入ると、テーブルには料理が並んでいた。
料理は配膳されてから、それほど時間が経った様子もありませんでしたね。
まだ冷めきっていませんでしたから。
でも、人間が生活していた痕跡はそれだけです。
『船内時間はアルサーニを出航してかラ』
「ふむん?」
宇宙船の航行記録を読み出したのですね。
操作方法が同じならば、どこからでも表示させることは出来た筈です。
もっと早く気が付くべきでしたね。
『……30分も経過していませン』
「なんですってぇ? じゃあ、船内時計と私たちの時計…」
『完全に同期していまス』
ウラシマ効果による時間遅延効果。乗組員が料理を配膳してから船の外に出るまでの時間。そして宇宙船が出現してから、調査隊が食堂に着くまでの時間……
自動調理装置のような機能もありませんから、到着寸前に料理を用意するようなトリックは不可能です。
そうなると、出航してから太陽系への到着は、ほんの数分です。
私たちの調査時間から逆算すると、それしか考えられません。
未知のファクターが絡んでいますか。
オーデル少佐のメッセージには何も書いて……
ちょっと待って?
メッセージを紙媒体で残すのは、一種の身分証明です。
使う便箋にしろインクまで指定されているのですからね。
手書きで文章を書き込むのもその一環です。
「もう一度オーデル少佐のメッセージを見せてくれる?」
『これですカ?』
私はメッセージをじぃっと眺めてみました。
舐めるように、隅から隅までじっくりと。
普通に読めばメッセージの内容は当たり障りのない文章が書かれているだけ。
酒のストックを切らしたハンスが泣いているとか、フリーデが盆栽を始めたとか。
そして、リーゼロッテは……
「これでは…… コンピューターが普通に文字認識で読む分には分からないわね」
ふとある事に気が付いた。
古い書体で書かれていたので、そちらの方に気を取られていたけれど、文字の間隔や大きさなどが彼のいつもの書き方と少し違うような気がします。
キーがわかれば文字の抽出は簡単ですね。
Liebe Esther,
Ich gebe dir ein Raumschiff, das schneller segelt als das Licht.
Alles Liebe
Oder
私へのプレゼント… ですか。
それも超光速宇宙船とは!
洒落た事をしてくれたものですね。
メッセージに隠された文章を日本語に翻訳すると、こんな感じになります。
親愛なるエスター
あなたに光よりも速く航行する宇宙船をプレゼントします。
ではごきげんよう
オーベル




