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アルーガは重要な拠点

 スキンスーツに着替えて、ドゥーラから飛んできたのは特に意味があっての事ではないのですけれど……

 単純に竜王様が魔物と戦いに行ったので、見物がてら応援に行ったというか。

 もちろん分け前も貰いましたとも。


「と、いうわけでタコ(クラーケン)の足なのです」

「竜王様から、1本せしめてきた訳じゃな?」


 さすがに下茹でまでは無理という事なので、そこは私がやるとして。

 ブンヨウギョを使ってぬめりを取って、柔らかくしてもらいました。

 こうして見るとさすがに大きいですね。

 うふふふ、タコをたっぷりと加えたお好み焼。さぞかし美味しいでしょうね。


「残念だが、小麦粉に余裕がないから無理じゃ」

「のおぉぉおおおう!」


 小麦の収穫は終わっているけれど、そんなに量はありません。

 どこからともなく赤っぽい牛さんの群れが畑を作るのに手を貸してくれたのですが、畑は急に増やせないというか。

 エスターを警戒して、あまり地上に痕跡を残さなかったのが裏目に出ましたね。


「それはそうとして、このタコ肉ですが… モダテの皆に配るとしても50キロあれば充分だし、亀姫様のところもそんな感じで良いですかね」

「うむ、それだけあれば良いと思うのぅ。食べ慣れぬ食材ゆえにな」


 でもね、そのペースで行っても100食分は楽にあるんですが…… 冬越しの食糧に回しますか。ストレージに仕舞っておけば傷む事もないし。

 そうだ、水産物加工場で働いていた人たちに下処理をしてもらえば、切り身を作ってもらうついでに燻製を作ってもらえるかも。


「というわけで、城内では週末にはタコレシピですね」

「まあ、仕方がないの」


 亀姫はまんざらでもない様子で応えた。

 イズワカは海──この場合は太平洋──に面した地域があるものの、その恩恵を受ける事が出来るのは僅かなもの。むしろ内陸部に広がる山岳地帯からもたらされるものだけで、日々の暮らしを賄うには十分なのだ。


 それに、天鏡海(あまかがみのうみ)という湖と言うにはあまりにも巨大な内海があるからなおさらだ。同じ船に乗るにしても、太平洋に比べれば波も穏やかな所で漁をするのは当然の流れと言える。

 だから比較的海に近いタカラ山近郊でも、妖怪たちが海産物を口にする機会はほとんど無い。


「わざわざ危険を冒してイカタコの類を獲りに行く必要もないのでな」


 地下都市に暮らしモダテの里の住民に比べて、人口の多い妖怪たちにタコ肉を渡す量が少ないのは… つまりは、そういう訳なのだ。

 亀姫と彼女の家臣たちは人間との付き合いも深く、色々なものを食べる機会はあるものの、基本的には食べつけない部類の食材なのだ。


「でも、美味しかったでしょう?」

「う…… たしかにタコ焼きは美味しかったが…」


 西の都の衛星都市のひとつは、天下の台所とも言われる食の都である。

 たこ焼きひとつとっても、無数のバリエーションがあると言われていたもの。

 そして、それらに共通するのは、タコ焼きを作るのには半球形のくぼみをつけた金属板が必要だという事だ。

 これがまた作るのも手入れをするのも手間が掛かるのだ。


 そんな事をしなくとも、手近な所にいくらでも食材があるし種類も豊富だ。

 それにイズワカも東の都と言われるだけあって、西の都には無い食文化がある。

 醤油の発明は食に対して大きな──革命的とも言える変革をもたらす事になる。

 極端な話だが、醤油が生まれたお陰でウナギは高級魚になったとも言える……


「ウナギを食べたくば、もそっと内陸に行かねばな」

「内陸に? ああ、ウナギは川魚でしたね」


 ウナギは主に養殖されたものが流通している事もあり、その出自自体があいまいになっているが、本来は川魚だ。その生態には謎が多いが、太平洋のどこかに産卵場所があるという。わざわざそんな所まで卵を産みに行くのも謎ならば、そこで生まれたウナギの稚魚が川に戻ってくるのも不思議な事実なのだ。


「かつてはの、アルーガのあたりでウナギがよく獲れたものじゃ」

「そう…… ですか」


 ナギはにんまりと笑った。


 ナギにすれば西に征く理由が増えたと言うものだ。

 ウナギなら、イズワカ近郊でも獲ることが出来るものの、消費するのは地元の妖怪がメインである。

 だから、いくらナギでもウナギを口にする機会は多くはない。


「川沿いに下ればイガルタじゃ。イズワカとの中間点といった意味合いもあるが、それ以上にアルーガは重要な場所であるのじゃ」


 中間地帯ゆえに、魔族との戦闘と言う意味では最前線になる。

 毎日のように量産されているベルゼルガも、その大半がアルーガ方面へと送られているのもそのためだ。まだまだ押され気味ではあるが、ベルゼルガの大量投入によってなんとかなっている。


 アルーガのダンジョンを完全に把握した昴がいなかったら、それをサポートする花音がいなければ、それも怪しい所でもあるのだが……


 埴輪(ベルゼルガ)は簡単に量産できるようなモノではないのだ。

おいしいご飯を食べるためには、手間を惜しんではいけないのです。

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