超兵器A1号
ナギは反物質ならいくらでもあるから、と言っていたな。
だがな、我々には反物質を扱った経験など無いのだよ。
全盛期の人類が開発したのは第5世代型の核反応炉…
そして核融合炉に過ぎないのだ。
「超兵器A1号… そんなものが本当に出来ますかね」
それは今回の作戦のために命名された兵器の名前だ。
破滅的な破壊力を持った核兵器よりもさらに凄まじい──新型水爆8000発以上の威力を持つそれは、文字通りの意味で惑星攻撃用の超兵器だ。
あくまでも理論上という事だけだが……
大都市をひとつ焼き払う事が出来るインペラーザ・ボムすら線香花火に見えるような破壊力を持ちながら、遥かにコンパクトなそれの正体は反物質爆弾だ。
魔族の中心都市を壊滅させる──それが3種族同盟の考えた魔族に対しての反攻作戦の骨子だが、それに対する人類側の回答がそれなのだ。
私はすぐに戦前からの生き残った技術者を集めて、ナギの出した課題について色々と検討させているが、一向に解決のメドが立たん。
少なくとも、反物質を何かに封じることが出来る事は分かっている。
私と王国宰相は、イズワカで爆発実験に立ち会ったからな。
「陛下、いくら何でも反物質の封入というのは無理がありますぞ」
「いや、諦めるのは早いぞ。小さいながらも現物はあるのだ」
「それはそうですが…… 技術情報ゼロという所からのスタートですからな」
残念ながら、この辺りは人類側で何とかするしかないというのが実情だ。
ナギが見せてくれたのは、あくまでもきっかけのひとつにすぎない。
それに、反物質は今の我々には過ぎたモノだ……
「私が反物質爆弾を供与する事は簡単だけど、それは神の掟に触れるのよ」
ナギは申し訳なさそうに、そう言ったものだ。
たしかにグレーゾーンに触れるギリギリの線だな……
薪は渡すが、それを使うのは貰った者の考え次第と言う訳か。
だがこれは大きなチャンスだ。この地球をわれわれ人類の手に取り戻すためには、相手よりも強力な攻撃手段が必要だ。
何が何でもこの超兵器を完成させなくてはならん。
血を吐きながら続ける悲しいマラソンだと? ふん、言ってろ。
すでにレメディウス号は魔族たちが我々の世界とつながるゲートの捜索を始めている。ケチラス号の役割は魔族がヤポネスに作り上げた橋頭保の撃破、だ。
彼らの露払いを受けて、我々の為すべきこと。
それが魔族世界の中枢に対する超兵器による攻撃なのだが……
「だから、この方法では……」「いや、これならいける!」
「それはそうだが……設備はどうする? それに誰が作るんだ」
「…………」「やかましい!」「あああああ!」
奉行たちも喧々諤々だな。
まあ、こういうものは一朝一夕で出来上がるものではない。
反物質の取り扱いについては基本的なノウハウすら存在しないのだから。
今の我々に出来る事は、一刻も早くそれらを何とかする事だろう……
「皆には苦労を掛けるが、これは我々が為さねばならぬ事だ。よろしく頼む」
とりあえず、私は席を外した方がよさそうだな。
いつもいつも御前会議というのでは、彼らも気を使って議論も進まないだろう。
それにしても松戸教授が存命だったのは、嬉しい誤算だった。
かなりの高齢のはずだが、それを感じさせない程に快活な御方だ。
「でも、松戸教授が考え出した物って……」
「孝之…… それは言わんでくれ」
名は体を表す… よく言ったものだが。
あの教授の考え出したトンデモ発明品の多くには、実用的な価値はない。
爆発は芸術だ、とばかりに色々なモノを作り上げて──それはそれで対魔族戦では効果のあったものも少なくは無いが……
少なくとも、今回の案件では技術者が本質的に抱え込んでいる常識など役には立たないだろうからな。
殻を破るというか、なにか突破口は開けると思うのだ。
だから、私は今回の会議に参加するよう依頼したのだよ。
少なくとも彼にはいくつもの実績がある。
「最大の物はグラビウムの発見と分析でしたかね」
「そうだ。恒星間移民船に組み込むはずだった重力エンジンだが… 最終的には彼の開発した重力素子の力が大きいのだよ」
あの時点で何隻かの宇宙船にビルトインされた重力エンジンだが、重力素子を使えば性能は変わらないが、はるかにコンパクトなものが作れた筈なのだ。
だが、それは日の目を見る事は出来ないまま、歴史の闇に埋もれてしまった。
この発見があと数年早かったら、歴史は変わっていたかも知れないだろう。
「上手くいくと良いですねぇ……」
「言ってもらわなくては困るんだよ」
未知のノウハウを短時間で実用化しようというのだから、人の斜め上どころか獣道を行くような発想の持ち主が必要だと判断したアルフォンスの判断は、果たして正しかったのだろうか。
今はただ、彼らの働きを見守るしかない。
前にも1度だけ出てきた松戸教授ですが、フルネームは松戸才穎。
ここまで言えば、あとは何も言うまい語るまい……




