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祖先の遺せしもの

 フリーデからの通信で、森の入り口に駆け付けた私たちが見たものは、コケやつる草に埋もれてかかっていたものの、間違いなく人工物だ。

 高さは2メートルほどか。材質は岩石とも金属ともつかない何かだ。

 まるで質の良い黒曜石のようにも見える。


「古代の石碑のようなものか? 何か書いてあるな」

「くさび型文字のようだが……」


 3人で時間をかけて掃除を続けると、昼過ぎには全体が見えるようになった。


「けっこう大きいな」

「幅が2メートル、厚さは1メートルはあるだろう。高さもそんなものか」


 それは、テチス海周辺に発達した古代都市の遺跡で、必ず見つかるものだ。

 都市の中心には必ず配置されている広場に置かれているからだ。

 それにしても、くさび型文字か。地球の歴史を紐解くと、紀元前3世紀あたりまでは使われていたそうだが。


「どこでも考える事は一緒だな。粘土板にへらか何かで文字を彫って、そのまま乾燥させれば良いわけだからな」

「元の文字はそうかも知れないが、風化の痕跡が見当たらないのが気になるな」


 どのくらい前に作られたのかは分からないが、たった今作られた新品だと言われても不思議が無いほどに、風化の痕跡が見あたらないのだ。


「ハンス、いつごろ作られたものだと思う?」

「俺様の見立てでは2万年、ってとこだな」

「どうしてわかる?」

「まあ、見ていやがれ」


 ハンスは、手に持った戦鎚の石突をぶすりと地面に突き刺した。

 それは30センチくらいめり込むと、ごすっという固い音と共に止まった。

 大きな石にでもぶつかったかな?


「変な音がしたな。岩のかたまりか?」


 ハンスは同じことを何か所かで試してみたが、結果はすべて同じ。

 とても大きな岩にしては、範囲が広すぎる。


「ヒントだ。この辺は、あの「平地」より少しだけ高いところにあるぞ」

「…この土の下も「平地」だったという事か?」


 もしもそうだとすれば、宇宙船が3隻も着陸しているのに余裕のある「平地」の部分には、内陸部に向けて続きがあるという事になる。ここもその一部だ。

 そして長い時間の末に、森に飲み込まれようとしている、と?


「俺様はそうだと思うぞ。もしも、ここが都市だとしたら、仮に地球のものと同じスタイルなら、ここが都市の中心になるはずだろ?」

「たしかに地球の古代遺跡は石碑を中心に据えているな… フリーデ?」


 ふと振り向くと、フリーデは、熱に浮かされたような、心ここにあらずといった様子で碑文を調べていたが、突然ぽそりとつぶやいた。


「……星… アル… アルサーニかな? ひょっとして惑星アルサーニかしら」

「フリーデ?」


 彼女の一言に、私は戦慄をおぼえた。

 紀元前30世紀前に使われた文字を、遠く離れた惑星で見る事になるのか。

 いや、単なる偶然だろう?


「まさか…… 読めるのか? 「これ」を!」

「コンピューターの力を借りれば、解読できるかも知れないわよ」


 たしかにこの碑文の文字は、地球の古代文字に似ているが……

 石碑を見ているうちに、私の好奇心は別の何かに塗りつぶされていく。


 神様、神様! そんな事が、あり得るのでしょうか?

 古代に栄えた文明は遥かな昔に滅び、かの文明の残渣はテチス海周辺国家に遺されました…… どう考えても宇宙に行けるようなモノでは…… なかった!

 彼等は砂漠の民として静かに暮らしていた民族だったはずなのです。

 宇宙に行けるような高度な文明なんか、持っていなかったのに!


 でも、エルフ族のフリーデは、部分的にでも「これ」を読んだ……

 ならば、これは… これも、地球の文字なのですか!?


 ……うう、気が狂いそうだ!


 神様、神様! 私をお救いください……


「このあたりにドワーフの大神殿に刻まれているのと似たような部分があるぞ」

 そう言うと、ハンスは石碑の一か所を指さして続けた。


 ……なんてこった!

 私の心はハンスの言葉によって完全に打ちのめされてしまった。


「そのうちに碑文を解読してみましょうか」

「ある程度この星の事を調べてからの方がいいと思うんだが」

「そうですね。そうしましょう」


 まずは私たちの安全を確保してからの話だ。

 碑文は後からゆっくりと調べればいいさ。

古い街を歩いていると、石碑を見かける事があります。

神様を祀ったものや、偉業を讃えたものなど色々な種類があります。

今回の疫病が収まったら、そういう物を見に行きたいものです。

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