色々な所にナギの影
魔導気球の性能には驚いたが……
到着した先の風景にも驚かされる事ばかりだ。
なにしろ、ここは……
「うわぁ、まさか御所の見学が出来るとは思わなかったわぁ」
「さすがに見事な出来栄えねぇ」
女性陣は、この事実に驚く事もないようだが。
私はそういう境地に達する事は出来ない。
「東の帝には、早々にお移り戴いたから出来る事ですけれどね」
王国宰相は別の意味で落ち着いているように見えるが、彼も彼なりに状況を飲み込もうとしているのだろうな。
普段のクールな振る舞いも影を潜め、今の彼は好奇心丸出しの姿はまるで学生ではないか。
「こちらにございます」
ここまで案内してくれたのが水干を身につけた貉というのも奇妙なものだが、魔導気球に乗った事を思えば、この程度なら軽いものだ。
それに、郷に入れば郷に従えと言うからな。
軽鎧を身につけ、竹槍を装備した大入道がいたって、別にいいじゃないか。
……ははははは。慣れと言うものは恐ろしいな。
この程度では驚かない私がいるぞ。
うむ、茶も旨い。城で出されるものの遥か上をいっているな。
「後ほど昼餉の膳など運ばせますゆえ、しばしお寛ぎを」
聞けば、この御所は最近になって再建されたものだという。
何物かは知らないが、この場所はヤポネス人に… いや、今の人類にとって大切な拠点になる事だろう。ここを拠点にする事が出来れば、魔族との戦いも有利に進めることが出来るはずだ。
「王国宰相の立場から言わせてもらえれば……」
ふっ、腹が膨れたら冷静さを取り戻したようだな。
こうして見ると、古城君もも公務員の顔をしているじゃないか。
エスターは… 普段通り、か。こうして見ると良い所のお嬢さんにしか見えないが、ハイエルフと言うのはやっぱり良く分からん。
で、ここに招いたのは昼食を振る舞うのが目的ではあるまい。
本題は何なのかな。
「実のところ、私も詳しい話は聞かされていなくてよ」
「……どういう事だ?」
そう言えば魔導気球も借り物だと言っていたが・・・・・
「あれはナギが貸してくれてよ。どうしても会わせたい人がいるから、って」
……ナギ、か。神託にあった人物だな。
王国の版図にいればいずれは見つかるだろうと思っていたが、こんな所に居たとはな。どうりで見つからないはずだ。
街道が整備されていた時代でも、ここまで歩くなら半月はかかるだろう。
今の有様では数か月かかっても不思議ではない。
つまりイズワカは、あらゆる意味で王国から完全に隔離された土地なのだ。
「そういう事になっぺかな」
「…… お前たちは!?」
「ご無沙汰しておりますわね、国王陛下」
水干を身につけた貉が来客を告げたので、通してもらったら……
そこには見知った男女が並んでいた。
「クラウゼル殿… ザーラック団長?」
里長のクラウゼル、武士団長のザーラック。
それはモダテでの防衛戦で行方不明になったはずの面々だ。モダテに侵攻してきた魔族に反転攻勢をかけ、そのまま行方不明になったと聞いていたが。
「ここは我らが父祖の眠る土地ですからね」
「んだ。モダテを治めていたジャアックは、ヒーノ家の分家だど」
だが、生きていたのならなぜ報せを……
ああ、そうか。これだけ離れてしまえば連絡など無理、か。
何はともあれ無事でよかった。こうしてお互いが再会できたという事は、そちらの作戦は無事に成功したのだな。それを聞くことが出来ただけでもここに来てよかったとおも… う……
……ちょっと待て。いま何と言った?
「だから、すべてはナギのお陰ですのよ」
ここでもナギ… か。
いったい何者なんだ、そのナギというヤツは。
「ご歓談中に相済みませぬが……」
おお、また貉か。今度は誰が来るんだ。
主様の御成り……だと?
これで人類側の主だった人物は出揃ったかも。




