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森を駆けるエルフ

 地球のものではないけれど、久しぶりに出逢った森の木々が嬉しくて。

 エルフ族の本能でしょうかね。ついつい自分を抑えきれなくなっていました。

 ゆっくりと歩を進めていたはずなのに、途中からは小走りになって、それが駆け足になるまでは、あっという間の事でした。

 オーデルなら「きゃっほう!」と、奇声を上げながら駆け込んだ事でしょう。


 それほどまでに、森の姿は美しくて。

 決して故郷の森にも劣らない風景に心を奪われて。

 地球にいた時の感覚で、森に向けて走り込もうとした時に……


 どう見ても、自然に出来たとは思えない物体が視界をよぎりました。

 ちらりとしか見えなかったけれど、森の中の木立に紛れて立っている、何かを。

 森の中にあるにしては不自然な、幾何学的な物体の影を。


 それに近づこうと、方向を変えた時に……


「あ……!」


 地面のくぼみに足をとられたと思ったら…… 身体は宙を舞っていて。

 何度か地面をバウンドすると、傍らの巨木に衝突して止まる事が出来ました。


「いたたた……」


 今の、オーデル達は見られていなかったでしょうね。……大丈夫のようね。

 肩をひどく打ち付けてしまったけれど、骨は折れていない、か。

 すり傷とかは回復魔法を使って無かった事に…… と。


 よしよし。これでいいわね。

 少し休んだら気力も戻ってき…


 ごづっ!


「のびょをっ!?」


 いたたた……

 何なのよ、もう。


 私の脳天を直撃したそれは、ころころと足元の方に転がっていった。

 寄りかかっていた巨木の実のようだけど。

 よく見ると、あちこちに同じようなものが転がっている。

 まるで拾いに来るのを待っているかのように。


 足元にあった木の実を拾い上げて、しげしげと眺めた。

 ずっしりと重たい木の実は、手のひらくらいの大きさがある。

 横から押しつぶしたような、特徴的な形は間違いなくブナの実だ。

 地球のものと、大きさがかなり違うけれど。


 念のために鑑定の魔法を使って調べてみましょうか。

 マナが豊富にあるから、魔法を発動させるのに何の不自由もないわね。

 ふふ、今なら詠唱破棄もできそうよ。



 ブナの実

 食用可能。堅い殻の中にある果肉はクルミのような風味がする。

 栄養価も高く、ミネラル類やビタミンが豊富に含まれている。

 微量ながら有毒物質を含む場合があるので、生食での大量摂取は危険。

 ただし毒物は揮発性。加熱する事により無毒化する事が出来る。



 大きさは別として、これもブナの実なのね。これは幸先が良いわ。

 だって地球では、森の動物の命はブナ科の植物によって支えられているのよ。

 まさに森の住人にとって、恵みと呼ばれるのに相応しい「食糧」なの。

 だから、ブナ科の植物の作柄は、農家にとってはとても重要。


 栄養豊富な実は、森に住む動物たちの重要な食料だもの。

 もしも不作なら山から動物たちが餌を求めて人里まで降りてくる。

 そうなると、食うか食われるか、という事になるわね。

 もちろん私たちもブナ科の植物の実は食べるわよ。


 身近なところでは、栗かしら。


 その他の、ドングリもあく抜きをすれば食料になる。

 軽く炒ったり、お湯をかければ簡単に殻が取れるから、粉にするの。

 料理やお菓子の材料にしたり、そのまま食べたりもしていたわ。


「これだけ大きな実をつける事が出来るのも低重力の恩恵かしらねぇ」


 見上げると、見渡す限りの枝には実が鈴なりである。

 ――すばらしい。 森の恵みで一杯じゃないの。

 ここに永住したいくらいだわ。


「っと、いけない」


 何をするにしても、とにかく不安要素を無くしておきましょうか。

 今は、さっき見かけた不自然な物体を調べてからよ。


 偶然に、それっぽく見えただけなら安心なのですけれど。


「……たしかこっちの方向だったわね」

ブナ科の植物の実は食べる事が出来ます。

ただし、生食は駄目です。

よく洗って、あく抜きをしないと口の中がががが…… おなかががが……

経験者は、かく語るものです。

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