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国王陛下もお出かけする

 秋の彼岸の時期には、穀物の収穫もほとんどが終わる。

 いよいよ来週は収穫祭という事で、街にはにぎやかな声が溢れている。

 それはとても良い事なのだが……


「問題はエスターの『招待』についてだが」

「そう言えば陛下のところにも来ていましたね」


 問題は孝之のところにも同じ内容の招待状が届いていた事だ。

 国王と王国宰相を同時に招くとは、よほど重要な要件があるものと見える。

 つまり、今回のクバツ訪問はただの収穫祭では済まないという事だ。


「今年の収穫祭では大した仕事もないのであったな」


 ちらり、と侍従に視線を送ると予定を教えてくれたが……

 明日の午後に、クバツの神殿で演説をするだけで良いのか。あとは休暇だと?

 たしかに残業は… 何度かしているが以前ほどではないだろう。

 それ以前に国王不在というのは、どうなのだ…


「群雄割拠の時代ならまだしも、この時期に重大案件は起こりますまい」


 たしかにな。この時期は魔族も大人しくしているし、クアルガと言う侵攻拠点を奪還できたという事もある。ならば、国王が率先して動かなくてはならない案件は無いという事なのだな。

 それならば、クバツでゆっくりするのも悪くはあるまい。


 とにかく明日の演説だが、内容は文官たちの手ですでに完成しているし、中身も暗記した。昔の政治家は手元に原稿を置し、下を向いたままそれを朗読するのが重要な仕事だったらしいが、そんな児戯で人が付いてくる筈はない。

 それで何とかなっていたのだから、能天気も良い所だな……


「国王陛下におかれましては、エスター様との誼を深められる事が重要ではなかろうかと愚考する次第でございまする」

「……で、あるか」


 うむ、侍従の言う通りかもしれない。

 王国制、君主制という政治形態はトップダウンで政治を動かすことが出来るからフットワークが良いのが特徴だ。今のような戦時体制下では有効なのだが。

 だからと言って、天狗になってはならない。


 国王にはすべての権力が集中しているが、それも善し悪しだな。実際にやっている事は方針を伝えて、関係部門に対して色々な調整と仲裁をするのだが。

 あちらを立てれば、こちらが立たずという… 複雑怪奇なパズルだな。

 先月からそういう案件が妙に多いと思っていたが、奉行たちは収穫祭に合わせて休暇を取らせるつもりだったとは。


「そうですね。お陰で、しばらくは奉行に任せても問題は無いと思いますよ」


 決済すべき書類も全て片付いたからな。

 昔の小説に描かれているシーンのひとつに、山のような書類と格闘する国王陛下の図というのがあるのだが、現実にはそういう事はあり得ない。

 そういう国王は、よほど優秀なのだろうと思われがちだが、実際には部下に恵まれないか、無能のどちらかである。


「ああ、そういう話なら子供の頃によく読みましたけどねぇ。それが現実に起きたら国としては終わっていますよ」

「作り話には、漫才のひとつも入っていなければ駄目なのだろうけどな」


 特にうちの宰相は、そう言う意味では優秀だからな。人材がいないというのなら育てれば良いだけの事だ。出来たばかりの王国ならまだしも、そうじゃない場合は特に、だ。

 官僚にすべて任せるのも問題だが、そのあたりの調整も国王の仕事だろう。


 いずれにせよ、今回は人材育成の成果が出たと言えるかも知れない。

 きっちり仕事が回っているのであれば、余暇を楽しむのは悪い事ではない。

 国王としてはむしろ、かくありたいものだと思っている。


「まあ、せっかくの心遣いだ。有難く休暇(まつり)を楽しむ事にしよう」

「それがようございます」


 王国の各地に点在する神社では収穫祭と秋の祭礼をする事になっている。

 もちろんクバツの神殿も例外ではない。むしろ中心はクバツという事になるのかも知れない。

 エスターという名のハイエルフが降臨した聖地… だからな。


「ヒト族に並び、人口の4割を占めるエルフ族を無下には出来ません」

「それも国王の仕事… か」

「そう思っております」


 侍従はにっこりと笑うと、その場を去ったが……

 あの物言いはちょっと気になるな。あの侍従は民族主義的な思想の持ち主なのだろう。その考えは危険だ。

 戦後の事を考えるには早すぎるが、粛清者リストに書き加えておくか。


「王国宰相としても無難な判断だと思う」「内戦が起きるよりマシだからな」


 エルフ族には、独特の宗教… ハイエルフを神として崇めている。

 彼等にとっては神聖不可侵の上位種族という事になるのだが、ヒト族にとっての天津神のようなもの。

 この国の国王としては、エルフ族との宗教戦争は御免こうむりたいものだ。


 まあいいか、可能性を論ずるのは今でなくてもよいだろう。

 馬車の支度も出来たようだし、とりあえず出発だ。


 とっとと仕事を済ませて、休暇を遊び倒すぞ!

中国の故事に「小人閑居して不善をなす」という言葉があります。

いわゆる悪代官もののメインテーマですが……

うん、あのゲームはなかなか面白かった。続編出ないかな……

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