バーサーカーはベルゼルガ
イズワカ盆地のお掃除も、そろそろ終わる頃ですね。
ナギが作り出した数千体もの埴輪による人海戦術のお陰で、戦争の痕跡はきれいさっぱり… とは行きませんが、それなりに片付いたみたいなのよ。
「不発弾処理のために埴輪たちが漢を見せるとは思いませんでしたけどね」
ナギは苦笑いをしているけど、大したものだと思うわよ。
まさか不発弾を見つけたら、自分から信管を踏みに行くなんてね。
まさに漢の所業だと思うわよ。
イズワカ城の天守閣から見える風景は今はまだ廃墟だけど、そう遠くない未来にはかつての賑わいを取り戻す事が出来るでしょう。
とりあえずは城下町の再整備をしなくては。
「地下都市に運び込んだモノを地上に出せば良いでしょう」
「それが一番簡単なのよねぇ。でも、その前にする事は沢山あるでしょう?」
地下都市からの引っ越しをする前に、色々と準備をしなくてはならない物もあるのよ。上下水道や道路の整備。それ以前に区画整理も進めておかなくちゃ。
旧市街地には無傷の建物もあるけれど、窓ガラスは駄目になってるし、かなり長い間放置しているから、再利用は無理でしょう。
「こんにちわー」
とりとめもなく、町の将来についてソルナックと話をしていたらナギが来じゃない。ちょうど良いから話に加わって… どうしたの?
「ユーディとカロリーナを回収してきたから、ついでにと思って」
「姫様が?」
「ユーディは北の森でキノコ狩りをしていたんだけど」
イズワカ盆地は南北と西側を山に囲まれている。そしてイズワカから西へ向かう街道はアルーガという集落跡に繋がっている。今のところ、ここまでがイズワカに拠点を移したナギ達の勢力圏という事になっている。
そして、東側には天鏡海が広がり、その北岸にはタカラ山がそびえ、亀姫の住まう亀ヶ城を中心に妖怪たちの集落が点在している。
南岸には水神様が当代の土地神として遷宮してきて。
「まあ、何があったのかしら」
「ユーディは北の森でキノコに……」「ええっ!?」「1の姫様が?」
「けっこう重たいですからね、キノコって」
たしかにキノコ自体はさほど大きなものではないし、それほど強力な魔物でもないけれど。時々、群れを作る事があるのだ。
仮にそのような群れに出会ってしまったとしたら……
「じゃなくて、獲物が重すぎて動けなくなっていただけです」
「……エルフ族にあるまじき失態ね。で、カロリーナはどうなったのかしら」
「埴輪と組み手を?」
はっきり言って、これは無謀に極みとも言える挑戦だ。
銅鐸の名前が示すとおり、ハニワと違って彼等のボディは合金製なのだ。
そして、かなりの重量があるのにも関わらず動きは機敏である。
その戦闘能力は軽戦車を凌駕するだろう。
「それも新型のベゼルガとね」
「たしか最近配備の進んでいる紫色をした銅鐸… でしたな」
片手をあごに当てたソルナックが言った。
石灯籠や埴輪に続いて開発された銅鐸は、左腕にごついカイトシールドを装備しているだけではなく、右手では青龍刀を振るう事も出来る優れもの。
さらにシールドに取り付けられた単結晶金属の杭で貫けない魔物はいない。
そこにレーザーカノンも健在とくれば、ヘビー級の戦闘マシーンなのだ。
さすがに銅鐸は作るのに手間が掛かるので、ロールアウトしたらすぐにイズワカ盆地の周辺に配置されて武士団のサポートに当たらせている。
そうでなくとも今のモダテ武士団にイズワカ盆地は広すぎるのだから……
そのあたりの事を話している間に、ナギはクラウゼルの目からは徐々にハイライトが消えていくのに気が付いた。
「ねえ、クラウゼルさん…… 現実逃避もいいけど、とりあえず帰ってきて?」
とん、と、彼女の目の前に果物の乗った大きな皿を置いた。
「エ・・ ああ…… これは見事な桃ねぇ」
クラウゼルの鼻腔をくすぐるのは、もぎたての桃が放つ甘い香りだった。
この地域の桃の収穫期は7月から10月の半ばあたりまでだ。
時期的には最盛期という事になるのだが、果樹園が残っていたのだろうか……
「植物って言うのは、結構しぶといのよ」
「ふふふ、これは1本とられたわね」
それから、エスター様のメイド達と何があったのかで盛り上がるのだが。
その日ユーディとカロリーナは桃を口にする事は無かった。
「ううう……こっ、腰がぁあああ……」
「おねーちゃんは腰だけだから… いたた……」
その日のうちに筋肉痛に襲われるのは若さの証明でもあるのだが……
完治するまでに、それなりに時間がかかったのは言うまでもない。
新型の銅鐸さんの元ネタは、北欧神話に登場する「狂戦士」。
バーサーカーの事なんですが、何となくぴったりのネーミングのような……




