赤色矮星の陽の下で
計算通りというわけにはいかなかったが、問題の赤色矮星に着く事が出来た。
光速の100倍というスピードでの宇宙飛行なんか人類は経験した事がないのだ。
ある程度の誤差は仕方がないと割り切るしかない。
航法データは記録してあるから、ゆっくり解析していけばいい。
それにしても驚いたぞ。惑星が2つもある。
どっちも地球型で… 要は「住める」星らしいってことだ。
『大気成分… グリーン。有害な細菌のたぐいも… ないな。問題は重力か」
こういうのが、俺様の得意分野だ。ドワーフだからこそ、これだけ短時間で精密な分析が出来るってものだ。
「オーデル、フリーデ! 第1惑星は宇宙服無しでも大丈夫だぞ」
『流石に仕事が早いですね』
『それにしても植物が豊かな星だな。ほとんどが原生林じゃないか』
「で、どうするよ?」
一刻も早く地上に降りたいもんだが、お伺いは必要だ。
艦隊司令はオーデルだからな。そのあたりをキチンとするだけの分別はある。
「ちょっと待ってくれ…… さっき、不自然に開けた場所があったんだが」
『その場所なら、私の方で特定していますよ』
それでこそフリーデだ。オーデルはけっこう雑な所があるからな。
出かける前に、ちょいとめかし込むぜ。
代々伝わるドワーフの鎧。そしてシュタール様から譲り受けた戦鎚だな。
こいつは親方が精魂込めて作り上げたものだ。
いま身に付けずにいつ使うというんだよ。
『場所が特定できたから、座標を送りますね。そこに降りるのでしょう?』
『すまん、フリーデ。助かったよ』
電子望遠鏡で探ってみると、着陸場所は…… 夜明け前か。
けっこう広いな。ちょっとした飛行場程度の面積はあるぞ。
そろそろ着陸脚を展開するするか。
4本の着陸脚はテレスコープ式だ。そこに内蔵されているダンパーは、重力が地球の10倍までは船体を支えきる事が出来る頑丈なものだ。重力制御システムと水圧ダンパーを組み込んだ着陸脚はこの上もなく優秀だな。
これを設計した古代人の叡智には、ほとほと頭が下がるぜ。
『オーデルだ。着陸に成功! ここはスケートリンクみたいに滑らかだし、地盤もしっかりしている。降りても大丈夫だぞ』
「わかった。じゃあ、フリーデ、俺達も降りようぜ」
『了解!』
着陸の時の衝撃はほとんどなかった。
このあたりは自動装置のおかげだ。地球のメカだとこうも滑らかには行かない。
地上に降りたからには、早く地面の感触を堪能したいもんだぜ。
「久方ぶりの地面にようこそ」
「ふん、気取りやがって」
プロイセン式の一張羅にピッケルハウベを被ったオーデルは、飄々とした様子で声をかけてきた。奴は艦隊司令として冷静さを装おおうとしているが、俺様には分かるぞ。あいつも久しぶりに地面立って浮かれていやがる。
「ふふふ、やはり自然の風は良いものですね」
「……フリーデもかよ」
森林の緑色に染められたチュニックに、深緑色のケープ。額を飾るのはミスリル製のサークレットだ。ばかでかい杖まで抱えていやがるじゃねぇか。
「ハンス…… お前が一番それらしいんだが?」
「ばっ、バカな事を抜かすんじゃねぇ。俺様の場合は、この星の重力が小さ過ぎるから仕方なく着ているだけだ!」
「そういう事にしておくか」
実際のところ重力は0.45Gだ。地球の半分以下だな。
大気が維持できているのは、赤色矮星と第2惑星がもたらした芸術的なまでに調和した重力バランスのお陰だろう。きれいに惑星同士で大気を循環させている。
そうでなければ大気は宇宙に散逸していたに違いない。
「ま、各艦のコンピューターを連動、航法データの解析をさせよう。
解析が終わるまでは休暇を楽しむとしようか」
「それも良いわね。ここはマナが豊富にあるから楽しみね」
そう言うと、フリーデは森の方に歩いて行った。
途中からは駆け足になって…… やっぱり転んだか。フリーデは地面を何度かバウンドしながらあらぬ方向へと転がっていった。
はっはっは、低重力ゆえのコントだな。
「じゃあ、我々は向こうを調べてみようか。水場があればキャンプが出来そうだ」
「食いモンは宇宙船から持ってこなきゃ駄目だろ」
俺達は、近くの小山に登ってみる事にした。
高さは20メートルくらいだが、あたりが平らだから、森の中にある平地くらいなら見渡す事が出来るはずだ。
それに、あの程度の勾配なら地上走行車で登るのも簡単だろう。
ドイツ帝国の初代宰相を務めたビスマルクがピッケルハウベを被った写真が残されています。
火器の出現が戦場から、このようなロマンティック装備を追い出してしまったのですけれど。
私はこういうモノも好きなんです。
そういえば、対戦車兵器を最初に開発したのもドイツ帝国だとか……




