ルーシルートもお仕置きをする
ラプティに案内されて本殿にやってきた人物。
どう見ても大人には見えません。身につけた服装さえ無視すれば、どこにでもいる小学生という所でしょう。でもね、その服装が問題なのですよ。
どんな物でもそうですが、ある程度のレベルまで改良が進められたアイテムの見た目は大きく変化しないものなのです。
そういうものは身近な所にいくらでもありますよ。
食器なんかがいい例ではないかしら。
そして衣服も、そういう部類に入ります。
ヤポネスでは着るものが和服から洋服に変わりましたが、着付けが楽なので洋服を着るようになっただけの事ですよ。
それに、洋服は西洋人の民族衣装と言うだけの事です。
衣類の素材やデザインは時代と共に変わりましたが、機能的には完成されつくしている物なので、大きな変化はないものです。
「そのお召し物、私たちのものとよく似ていますね」
『私の推定が間違っていなければ、当然の帰結だと思う』
そして目の前にいる子供に… こっそりと鑑定の魔法を使ってみましたが、この人物は生身の人間です。
そして、魔法で姿を変えている訳ではありません。
ぱっと目には、見た目通りの子供なんですよ。
ふむん。
身体は子供、頭は… という奴ですか。
どうやら、あなたがそちらの陣営の中心人物のようで。
ああ、そうそう。お名前を伺っていませんでしたね。
『名前はルーシルート。ルートと呼んで欲しい』
ルート…… ですか。
彼女が話している言葉をヤポネス語に翻訳すると仲間の女性… かな。
そうなると、エスターは…… 星とか星々という意味合いにですかね。
中途半端に古い言葉を使うものですね。
だって、あなたがたの出自はもっと古いでしょう?
で、あなたは何者なのです?
『私は、このポンコツの予備』
「ポンコツ?」
ルーシルートはそう言うと、エスターを指さした。
エスターの事のですか… なんかむくれていますね。
おーい、拗ねてないで会話に参加したまへ。
『あなたがナギだという事は分かっている。その上でお願いがある』
エスターを開放してくれと言うなら、聞けませんよ。
神も滞在する重要な拠点での乱暴狼藉は見逃す事は出来ません。
それにね……
『それはを止める気はない。だけどポンコツな上に変な趣味に目覚めるたら嫌』
「……それはそれで怖いかも知れませんねぇ」
「だったら、さっさと縄を解きなさいよ!」
だからエスター、その縄は人間の力では切れませんよ。そもそも宇宙船牽引用に開発されたものですからね。
それに縄を解いてほしかったら、大人しくしている事です。
今のあなたを自由にしたら、暴れ出しそうな気がしますからね。
『それについては同意。うざいからこのままで良い』
「容赦がないですね……」
『これだけヒントがあったのに、目の前にいる巫女の正体ががナギだという事に気が付かなかったエスターはポンコツ』
ふふふ…… バレちゃいましたか。
「ちなみに、どこから気が付いていましたか?」
『最初から気が付いてた』
そうかも知れませんね。この地球上に火星語で日常会話が出来る人物など数えるほどしかいないでしょう。
その全員が土地神の爺のような天津神なですけれど、あなたがたは違いますね。
そこまで進めたところで、ルーシルートが初めて穏やかな笑みを浮かべた。
『いずれはバレる事だから…「待ちなさい、ルーシルート!」…待たない』
エスターはルーシルートを止めようとしたけれど。
ごく自然な動作で、私の手からひょいと筆を取ったルーシルートがひと撫ですると、途端に大人しくなって…… ふむ、ここが弱点ですか。
どうせなら徹底的にやってしまいますか。
ストレージからもう1本筆を取り出して……
『悪は滅びた。それで話の続きだけど……』
にわかに信じられないような出来事が起きました。
ルーシルートの言っている事が真実だとしたら……
ヘルマから貰った宝玉を取り込んだ今だから、はっきりわかりますけれど……
冗談抜きで、彼らは私の『いとこ』かも……
エスターとルーシルートの元ネタは旧約聖書です。
女性がタイトルになっている聖典は2冊しか無いんですよね~




