風流なんか要らない
今回はエスターも本気を出してきた… という事でしょうか。
3機の大型グライダーから降りてきたのは、無数のメイドです。
グライダーの操縦士その他を含めると、全部で100名くらいになりますか。
「のう、ナギよ。このままでは城の中に……」
純白の落下傘が青空に映えますね。でも、こういうものを鑑賞するには時期が良くないと思うのです。適度に入道雲が浮いている夏空よりも、雲ひとつない抜けるような蒼い空。
初秋の晴れた日なら、さぞかし美しい風景だったかも。
「風流と言えば風流であるが、城内に直接降下とは、無粋じゃの」
水神はそう言うと、持っていた笏を懐に入れた。
代わりに1柄の扇を取り出すと、ゆっくりと開いて……
「出直してまいれ!」
彼が扇を開いて、軽く一振りした途端に、台風もかくやとばかりの烈風が降下中のメイドに襲いかかった。
落下傘を使って大軍を送り込むにはリスクがある。100年前ならまだしも、後の時代… 兵器の発達した落下傘部隊というのは使いどころが難しい。
輸送機から落下傘で地上に降りるまで、時間がかかり過ぎるのだ。
それに、落下傘は飛行機のように機敏に動き回ることも出来ない。
降下兵は奇襲のための部隊なのだが、優秀な対空火器の前では戦争にもならない。
地上制圧のための準備攻撃無しで降下する落下傘部隊は演習用の的なのだ。
「ふむ」
ぱちり、と扇を閉じた水神は、烈風に飛ばされたメイドを眺めていたナギに話しかけた。
「さて、ナギよ。我がみめよ。かの者たちをいかがするかの」
「私が采配してもよろしいのですか?」
神々の間で交わされた盟約で、人類同士の諍いに介入する事を禁じています。
水神様は、これ以上は手出しが出来ないのです。
だから、私…… ですか。
「今のそなたなら、盟約に縛られる事はあるまい?」
「……まだ人類を卒業していませんでしたね」
「ほほほほ。ならば、いかようにも動けるのでおじゃる」
そう言うと、水神様は城内に戻っちゃった。
ふむん、困りましたね……
おや貉さん。どうしたのですか? ああ、亀姫様がさっそく動きましたか。
とりあえずは偵察? それは賢明な判断です。
「亀姫様、物見が戻りましたぞ」
「どうであった?」
「は。き奴らは天鏡海に落ちましてございまする」
烏天狗を飛ばしましたか。
たしかに彼らなら、吹き飛ばされたメイド部隊を監視できますね。
へえ、グライダーは砂浜に着陸していましたか。あれだけの大型機だし、砂浜に降りるのも計画の内だったのでしょうね。
でもメイドは気の毒に。落下傘が烈風をまともに拾いましたから、予想以上に遠くまで飛ばされたようですね。
降下中だったメイドは全員が天鏡海で水泳をする羽目になったようです。
まあ、この気温ですから風邪をひく事もないでしょう。
「態勢を整えるのに、多少の時間はかかりそうですね」
「ナギよ、総大将を引き受けてもらえまいか?」
このお城の城主は亀姫様、あなたでしょう?
私は防衛戦のお手伝いをするのが……
「もともと亀ヶ城はイズワカ城の支城に過ぎぬのでな。ゆえに、頼むのじゃ」
「そう来ますか……」
「道理であろ?」
妖怪さん達の間では、私がイズワカ城の城主と言う事になっているらしくて。
そういえばモダテの里の皆さんも似たようなことを言っていましたね。
イズワカを奪還してお城を再建したのはナギなのだから、って。
でも、そんな事で……
「ナギ、諦めなさい。城塞ネットワークの構想はね、地上戦オンリーだった時代からのシステムなのよねぇ」
……花音、そんな事は私も分かってる。余計な事を言わないでよぅ。
「ナギ様」「みめ様……」
ほらぁ、妖怪さん達まで乗り気になっちゃたじゃないのよぅ。
「で、どうするのじゃ?」
だーかーら、亀姫様も期待に満ちた目で見なくても。
何をそんなにワクワクしているんですかね。
ううううう…… こっ、これじゃ断れない。
裏話用の次の絵がなんとか出来上がりそう。
でも、色々と物議をかもしそうな気が…… まあいいか。
予定通り明日には投稿できそうです。




