ハイエルフとグダグダなお話
記録がとりとめのない内容だという事は… まあ、自覚している。
らしくないと言われるかも知れないが、そこは大目に見て欲しい。
これは重要な案件だと思うのだが……
「…だとしたら、結論だけ言えば良いでしょう」
私は叩きつけるようにして、クリスタルの再生スイッチを切ると、ヘッドセットを外して立ち上がった。
オーデル少佐のボヤキは珍しいけど、ちょっと間が悪かったわね。
ナギの件は保留にするとしても、奇妙な現象を発見してしまったのよ。
それは今までの記録には無いタイプの時空間のひずみ。
時空震が起きる兆候もないし、重力異常が起きている訳でもない。
それを何と表現すればいいか……
『別の時空間から何かが飛び出そうとしている?』
……サブシステムが言うのも、何か違うような気もする。
深い霧が一瞬薄くなって、あたりの景色が見えるような… そんな感じだ。
敏感なセンサーを使って、ようやく捉えることが出来たのだけど、それさえも偶然の要素が大きいと思うのよ。
『条件を変えてシミュレートしてみる』
「でも、まだまだ仮説すら立てられない状況でしょう?」
ライブラリに空間密度についての研究データーがあったそうだけど。
普段は使う事がないものだから、ライブラリがある事すら忘れていたわ。
たしかに良く出来た論文だけど仮説でしょう?
思考実験と言うか、どちらかというと思考パズルに近いわね。
自然現象を数理モデルとして扱う事は出来る事は、よく知られている。
それこそ物が上から下に落ちる、なんて簡単なものから台風の中で起きる空気の流れのようなものまで、何もかもがね。
でもこれだけ限定されたモデルとなると……
『今までに観測された情報だけでも、ある程度は条件は絞り込める』
そうなると、観測機を飛ばしてデーターを集めていくしかない… か。
空間異常が見つかったのはオバラムという地区の上空だけど、あそこにはあんまりい思い出は無いのよね。
古い対空砲陣地が生き残っていたらしくて、エリントシーカーが攻撃を受けて。
オノール湖の近くに不時着を余儀なくされたのよ。
機体に残っていた対空砲弾は、当時使われていた一般的な重機関銃のものだったけれど、それだけに… ね。
不幸な事故だという事は分かっているけど、エリントシーカーの装甲に穴が開いたのが気に食わないの。
穴が開くはずなんか無いのよ、普通に考えるならね。
だって、重機関砲程度なら耐えられるようになっているのだから。
『それについては遺憾。でも現実は直視すべき』
分かってるわよ。
だから装甲版は設計し直したでしょ。
それよりもシミュレートはどうするのよ。
すでに始めている? 追加データーがあれば捗る?
それから、毎日同じタイミングで観測するようにしているけど……
観測された空間異常には規則性がないし、どうすればいいのかしらね。
時空震が起きる兆候もないから、深刻に考えなくても良いかも知れないわね。
『そう思うなら、オーデル少佐のクリスタルを読み進めるべき』
「それが良さそうね」
たしかに、クアルガでの戦いの後で魔族の侵攻は一段落している。
モダテに現れる魔物もたかが知れている。
オーガすら出ないのだから、暇なモノである。
だから私も地下室に籠っていられるのだけど… ね。
「じゃあ、後はよろしく」
『ん。任された』
じゃあ、読みますか。ええと……
なによぉ、これ…… 完璧にボヤいているだけじゃないのよ。
……艦載頭脳から報せを聞いたのは、何回目かの宇宙探査から帰る途中だっただろうか。返事が来る事など期待していなかっただけに、喜びと言うよりも驚きが先に立ったものだった。
なにしろ地球を出発した超光速宇宙船がアルサーニに到着したのだから!
『形式データは、M2034-01型汎用宇宙船・プライオス。母港は… テラ』
これでもかとばかりに貨物室に詰め込まれていたのは、多目的プラントの部品と作業用のロボットだ。セントラル・コアは宇宙港でも作らせるつもりだろうか。
食糧が欠片たりとも積まれていなかったのはアルサーニに豊富なブナの森があるからだと思うのだが、甘いものが恋しくてな。
甘いものはアルサーニでは貴重な物資だ。
球形宇宙船の食料合成機で合成は出来るのは、サッカリンのような合成甘味料ときている。だけどな、俺達は砂糖が欲しいんだ。
だから補給物資にキャンディの一粒も入れてくれればなぁ。
決して贅沢を言う気はないんだけどね。
その程度なら大した重量ではないだろう?
その程度なら大した重量ではないだろう?
オバラムには烏天狗さんの里があります。
いきなり出現した対空砲陣地はナギが何とかしましたが……
何かグダグダになったけど、なんとか伏線の回収は出来るかも。




